前兆
アルフレッドは司令室にいた。先ほどの戦闘報告をするためである。 「さすがにこの時期にこういう馬鹿な連中が動き出すと西での戦い (エウロペ大陸の事)に集中できんな。」 報告書に目を通した後、やや呆れ顔で言う司令官。 「まったくです。」 眼鏡をクッとあげながら言うアルフレッド。 「所詮は旧共和国軍の生き残りと反政府組織の集まりです。 ことに旧共和国軍の生き残り連中は、今回の戦いで活気付いているようです。」 「そこで突然ではあるのだが、その連中を黙らせるためにも君たちの部隊に 西に行ってもらいたい。」 その言葉に目の色が変わるアルフレッド。 「われわれは首都ダークネスを防衛する部隊です。ここの治安を どうするおつもりですか!?」 司令官に詰め寄るアルフレッド。 「心配せずとも君たちの代わりは既に用意している。」 いすを回転させアルフレッドに背を向けながら話す司令官。 「どういうことですか。」 冷静さを装いながら言うアルフレッド。 「今度、次期主力ゾイドとしてジェノザウラーが実践配備される事となった。 もちろんこの首都もジェノに防衛してもらう事となる。それに合わせて パイロットも調整が完了した。あさってには西に行ってもらう。 向こうに着けば君とアダールに部下をつける予定だ。せいぜい可愛がってやってくれ。」 そういうとすっと立ち上がり窓から見える夜のダークネスを眺める。 「……わかりました。」 そう言うと穏やかではない顔をして部屋を出る。 部屋を出た後、宿舎に向かい歩き始めるアルフレッド。 (所詮ゼネバスの生き残りには、首都防衛は任せられないという事か。) アルフレッド・イオハルは、旧ゼネバス帝国の生き残りの血筋である。 彼の愛機も、彼の父が中央大陸戦争時から駆っていたグレートサーベルである。 そのため、他の二人の乗るセイバータイガーとは違い、ATを装備していても 性能は劣る。 ただし、カラーリングは、上層部の命によりディオハルコンを燃料としている 他の2機に合わせている。 (ディオハルコンを燃料とするゾイドは、体が緑色に発光する。) アルフレッドは宿舎に戻ると部隊の全員を集めてそのことを伝える。 「おほっ、そりゃいーや。レジスタンスと違ってさぞかし骨が あるんだろうな共和国軍は。さーて、祝い酒だおまえらもついてこい!!」 そういうとヒィルは二人の部下を連れてその場を去る。 「いいのか今回の件。」 何も言わずたたずんでいるアルフレッドに問い掛けるアダール。 「いいも何も命令だ。無視すれば銃殺か永久に牢屋だ。」 そうつげるとその場を去るアルフレッド。 アダールは黙ったまま、アルフレッドの去った方向をじっと見詰めていた。 2日後、彼らの姿は1隻の船の中にあった。 その船は南へと下っていく。 現在、エウロペ大陸で行われているガイロス帝国とヘリック共和国の戦いは、 ガイロス帝国が、オリンポス山をその圧倒的な力で制圧していた。 それだけでなく、共和国軍を東の端にまで追いやっていた。 しかしいい事ばかりは続かない。 急激に進軍した帝国軍は、補給路の確保もままならず最前線であるミューズ 森林地帯では、劣勢であるはずの共和国軍にゲリラ戦を仕掛けられ、逆に部隊の 士気を低下させる事となった。 現在は一進一退の攻防がミューズ森林地帯で繰り広げられている。 しかしエウロペ大陸に到着したアルフレッド中隊は、この攻防とは関係ない 西エウロペへと派遣される。 目的は西エウロペ大陸にて遺跡を発見する事である。
「まさかこんな辺境まで来て遺跡探しをさせるとは、我が軍も焼きが回ったな。」 機体を南に向けて進めながらつぶやくアダール。 その脇に改造ヘルキャットのハイ・キャット2機が追随する。 「隊長、そんな事いって中隊長(アルフレッドの事)に怒られますよ。」 ハイ・キャット1番機のピファがつぶやく。 「心配するな、あいつと俺の仲だ。聞かれても笑って許してくれる。」 笑い声を上げるアダール。 アダール率いるアルフレッド中隊、第2戦隊はマンスター高地に来ていた。 この時、第1戦隊のアルフレッドは、西エウロペと北エウロペの接点である ニザム平野に設営されたフォルナ前線基地で待機していた。 前線基地とはいえ、ホーエルカイザーが2機配備されているような大きな基地である。 第3戦隊のヒィルは、最近激化しつつある北エウロペ大陸へと臨時出張している。 最近共和国軍も新型飛行ゾイドを開発し、東への補給路を断つべく爆撃を開始 し始め、防空のために背中のツインハイブリットが必要とされたためだ。 「ん!?」 アダ―ルはひとつの計器の異常に気づく。 「どうかされましたか?」   ハイ・キャット一番機からアダ―ルの声に答えるように問い掛ける。 「レーダーにおかしなものが映っている。2時の方向2kmといったところだ。調査するからついて来い!」 そういうとアダ―ルはセイバーを北北東に向けスピードを上げる。 そのあとを2機のハイ・キャットが続く。 数分後、そのおかしなものを発見する。 黒を基調とした機体。前足の肩の装甲には、ワインレッドが塗られていた。 「あれは・・・黒いコマンドウルフ。しかしなぜこんなところに共和国のゾイドが・・・・。」 一瞬目の前にいるコマンドウルフに戸惑うアダ―ル。 はっきりいって遠方の西エウロペ大陸に共和国軍が入るほどの余力はない。 せいぜい南エウロペ大陸が関の山である。 「こいつ正規軍のやつじゃないな。」 そういうとコンソールの脇にあるマイクに手を伸ばした。 相手もこちらの存在に気づき、出方をうかがっている。 「そこの黒いコマンドウルフ!貴様は共和国軍か!?」 その言葉に反応してコマンドウルフのコックピットハッチが開く。 中から出てきたのは男だ。頭にオレンジ色のバンダナ、左眼には眼帯をしている。 「俺はただのフリーの用心棒だ。」 男はアダ―ルの問いに答える。  「用心棒か・・・用心棒がこんなところで何をしている。」 「ただの盗掘さ。最近儲け話がトンとなくてな。」 「残念だが盗掘をしていると聞いては黙っては置けんな。我々はこの辺一帯の 遺跡の発見を任務にしている。黙ってここから去ると約束してくれれば我々は 何もしない。どうだ?悪い取引ではあるまい。」 「・・・・・・了解した。ここから撤収する。」 男は少しの沈黙の後、アダ―ルの提案を了解する。 (まだ出てくんなよ・・・・・。) そう心の中で男は祈りながらその場を去る準備をする。 そしてコックピットハッチがまさに閉まろうというとき通信機から高々と声が発せられた。 「アーバインさん!!野生ゾイドの捕獲に成功しました!これを戦闘ゾイドに改造できます!」 「くそたっれ!!もうちょっとだったのに・・・!!」 そういうとアーバインはその場から急速にコマンドウルフをアダ―ルの部隊に向ける。 それを見たアダ―ルは、慌ててマイクを放り出し戦闘態勢に移る。 「戦闘ゾイドだと!?こいつら一体ここで何をしているんだ!?」 ぼやきながら愛機を起動させる。 「フィア!ノルア!一時散開してやつをはさむ!!早く動きやがれ!!」 なかなか動かない2機のハイ・キャットに檄を飛ばす。 その間にもコマンドウルフは、速度を上げてこちらに向かってくる。
バキ!! 鈍い音とともに1番機、フィアの乗るハイ・キャットの背中のブースターが空に舞う。 次の瞬間コマンドウルフのエレクトロンファングが、コックピットを噛み砕いていた。 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 フィアの断末魔が通信機越しに響き渡る。 「あの野郎・・・・!!」 「マクファルト、こいつらは俺が引きつけておくからてめーらは、野性ゾイドをさっさと連れて行け!!」 背中の2連ビームを連打しながら叫ぶアーバイン。 「ノルア!相手をけん制するからおまえが一撃を加えろ!!」 そういうとアサルトセイバーに装備されている16連ミサイルを放つ。 それにあわせてノルアの乗る2番機は、250kmのスピードでコマンドウルフに迫る。 ミサイルの雨がやむとすぐさま視界にハイ・キャットが飛び込んできた。 そしてハイ・キャットからビームの嵐が来る。 「こなくそ!!」 そういうと愛機を強引に動かす。 体制が悪い中でハイ・キャットの攻撃をかわす。 ハイ・キャットの攻撃をかわしきると、そのままハイ・キャットに向けて 愛機を走らす。 それを見たノルアは少したじろいて動きを止めてしまった。 それが命取りとなる。 動きの止まったハイ・キャットを見てコマンドウルフの 2連ビームがハイ・キャット胴体に吸い込まれる。 次の瞬間大きな爆発音とともにハイ・キャットの存在が消える。 「改造ゾイド相手だとてこずる・・・・・。」 ぼそっとつぶやくアーバイン。 「よくも二人を・・・!」 そう叫びながらアダ―ルはコマンドウルフに向ける。 「何!?」 脇からの攻撃にアーバインの反応が遅れる。 セイバーのストライククローを左後ろ足にくらい、その場にしゃがみこむウルフ。 「とどめだ!!」 そのままのスピードでセイバーを反転させると、ウルフに機体を向ける。 そしてミサイルポッドから嵐のようにウルフに向けて発射する。
左後ろ足の損傷で極端に動きが鈍くなってしまったコマンドウルフは、 何とか右往左往してミサイルを交わしながらビームを放つ。 しかしセイバーには当たらない。逆にウルフのほうが数発のミサイルをくらい、動きが止まる。 「くっ!なかなかやるじゃねえか!!」 そう言いつつも動きの鈍い愛機を操りながら何かをまっていた。 ウルフの動きが見られなくなるとセイバーを猛スピードでウルフへと近づける。 その間もウルフから2連ビームが何度か発射されるが、それを難無くすり抜けていく。
そしてもう一度8連ミサイルポッドからマイクロミサイルが多数発射され、 コマンドウルフを包み込む。 それと同時に止めを刺すためにセイバーがウルフへと飛び掛かる。 しかし、飛び掛かった瞬間、セイバーめがけて一筋のビームが放たれた。 「何っ!?」 アダールはそれを見て、ジャンプ中の機体を必死によけさせようともがくが、 それが逆に仇となってセイバーのゾイドコアを直撃してしまった。
ゾイドコアを打ち抜かれ、断末魔をあげながらセイバーが地面に転げ落ちる。 高地のため、そのまま低地に向けてセイバーが転がりつづけ、300mぐらい 転がったところで止まる。
「ふぅ何とか倒したみたいだな……。この分は倍にして払ってもらうか。」 そう言うと傷ついた愛機をゆっくりと西へと向けた。 数時間後、連絡が途絶えたアダール隊を捜索していた部隊が、 彼らの無残な機体を発見する。 アダール隊は謎の敵との交戦により全滅。 アダール他、2名のパイロット全員死亡。 アダールは大きな衝撃を受けた時に首の骨を折って即死ししたと アルフレッドに報告された。  
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