昏 迷
あれから数日後、アルフレッドはニクスにあるニクス基地指令本部にいた。 「第2戦隊が全滅するとは…。調査はすんだのか?」 彼を呼んだ作戦本部長は、虎の子ともいえるグレート・セイバーを大陸に 進出させてわずか1週間で失ってしまった事にアルフレッド達の腕に不審感をつのらせる。 「現在のところ調査中ですが、敵と思われるゾイドの足跡がありました。」 「照合は?」 「はっ、共和国軍、コマンドウルフと判定されます。」 「コマンドウルフだと!?まさか共和国の連中か…!!」 驚愕して思わず席を立つ司令。 「いえ、それはありません。先のガリル遺跡での調査の際に派遣された ジェノザウラーからの情報では、新型ゾイド中心とした共和国ゾイドの中には、 コマンドウルフはいなかったとのことです。おそらく傭兵や反政府組織ではないかと。」 淡々と報告するアルフレッド。 「傭兵や反政府組織などに我が軍のセイバーが負けるというのか。」 「我々の軍隊は無敵ではありません。今後このような事もあります。 ガリルでのジェノがいい例です。」 ガリル遺跡ではオーガノイドシステムの争奪戦で、辛くもジェノは オーガノイドシステムを持ち帰る事が出来たが、随伴のレブラプター部隊は全滅、 ジェノ自身も傷ついてアルフレッドのいるフォルナ基地に逃げ帰ってきたのだ。 「…なるほど、そのうち共和国以外に敵にしなければならない日が来るというのか。」 司令はやや疲れた表情でつぶやく。 「いや……必ず近いうちに何かしら仕掛けてくると思います。」 アルフレッドは何かを確信した目でいう。 確かにアルフレッドの言う事は間違いではなかった。 アルフレッドのいない間を狙ったかのように、フォルナ基地に謎の賊による 奇襲があったのである。 基地に帰ってきたアルフレッドは唖然ととした。 確かに自分はいなかったが、この基地は各地にある前線基地の中でも防備は かなり上のほうである。 それなのに謎の賊により、基地にあったイグアンなどのゾイドがあちらこちらに その無残な姿をさらしていた。 基地全体で見ればそれほどひどい被害は受けなかったが、配備されていたイグアンなど のゾイドが賊に盗まれてしまったのだ。 基地の副司令に聞くと、突然夜襲をかけられ、満足いく対応が出来ぬまま敵にゾイドを 盗まれてしまったという。 その賊の中には黒色の共和国ゾイドや帝国ゾイドのほかに見た事のないゾイドが 何機か混ざっていたという。 「副司令、今回の事は残念だがこれからもがんばってくれ。」 アルフレッドの手元には、上層部からの副司令の左遷辞令があった。 「はっ。」 敬礼すると副司令は、アルフレッドの部屋をあとにする。 その背中には何とも言えない哀愁(あいしゅう)が漂っていた。 「さて…この分だとまたここを襲う可能性もあるな。上層部に手を打ってもらう よう願い出るか。とりあえず次ぎに来た時はアダールの敵討ちをさせてもらう。」 そういうと机にある電話に手を伸ばす。 アルフレッドは状況を把握(はあく)した上で、今回の賊とアダール隊を全滅させた 相手は同じだと感じとっていた。 ちょうど同じ頃、西エウロペ大陸都市国家の一つであるシビーリにある工場では人々が あわただしく作業に追われていた。 「今回徴用したゾイドの調整と塗装変更作業はどうだ?」 現場監督らしき男が、部下に足して作業行程の進み具合を聞いている。 「予定には何とか間に合いそうです。」 「よっ!マクファルト。」 二人の打ち合わせに割ってはいるものがいた。アーバインである。 「アーバインさん、どうしたんですかこんなところに?」 「ここの仕事も終わったんでな、また旅に出る事になった。で、あいつの整備は 出来てるか?」 にこやかに語りかけるアーバイン。 「出来てますよ。」 そう言って工場の奥にある黒い機体に目をむける整備兵。 「それにしても、ここまで付き合ってくれたんですから我々とともに…。」 「それはおまえさんの上連中にも言われた。ま、今回の事はあくまで契約だからな。」 「次はどちらにいかれるんですか?」 「そうさな、共和国あたりにでも行って見ようかと思っている。それじゃな。」 そういうとマクファルトに背を向けながら手を振る。 コマンドウルフの脇には、この大陸でしか生息しない野生ゾイドを改造した ゾイドや帝国や共和国基地から奪取してきたゾイドが並んでいた。 野生ゾイドは、この間のアダール隊との交戦時に捕獲したゾイド達だった。 数分見つめると愛機に搭乗し、その場を去った。 そしてその工場から数キロ先に大きな城の会議室では、城主(ロード)と摂政らしき 男が会議を行っていた。 「アーバイン、彼をこのまま返してしまってよいのですか。彼は優秀です。 今後の作戦にも参加してもらなくては。」 摂政らしき男が、議会室の中央にいる50代半ばのロードにつめ寄る。 「彼はよくやってくれた。確かに今後彼がいないと多少の問題が起きる可能性もある。 しかし我々はこれからなすことをせねばならない。 その事まで一人の男に頼っていては我々には勝ち目はないのだよ……。」 「明後日には、今後の最終調整のためにドルトムントにて各ロードが集まります。 もう都市をでなければなりません。急ぎ支度を整えてください。」 そういうと摂政はそそくさとその場を去る。 「急ぎすぎは身を滅ぼすもとだ。彼にはそれがわからんようだ…。」 深いため息をつくロード。 現在この都市国家や他の都市国家は、ある事のために必要な軍備を行っている。 その軍備増強のほとんどは、共和国、帝国の両国内にて潜伏中の武器商人達が 闇ブローカーを通じて手配しているのものだ。 ただ大型輸送船は、なかなか手に入らずじまいで考えあぐねていた。 現在手元にあるのはホエールカイザー1機、タートルシップが3機である。 これらは旧大戦から使用されていた年代もので、故障などの不安が残る。 そのため、前回のフォルナ基地のホエールカイザーを奪取しようとしていたが, 作戦直前に基地を飛び立ったことがわかり、やむなく目標を第2目標の戦闘ゾイドへと 変更したのだ。 前回の失敗から今回、各都市国家ロードとの連携による奪取作戦を行う。 ドルトムントではその作戦を話し合うのだ。 そして再びホエール奪取作戦へ向けて、着々と準備が進む。 会議では同じ失敗を繰り返すのではないかと慎重派の意見も出たが、 強硬派が押し切る形で作戦は実行する事になる。 数週間後、彼らは行動を開始した。
前回の事もあり、夜も警戒が厳重となったフォルナ基地。 「しかしまあこんなに厳重にしてまた来るほうがおかしいだろうに。」 見張り台にいた監視員がたばこを吹かしながらぼやく。 「ぼやいても仕方ねえだろ。ただ、これだけ厳重にしておけば威嚇にもなるんだ。 その方がおれたちも暇のまますごせるわけだ。」 警備する彼らの心には、二度も同じところを急襲する奴はいないと タカをくくっているものが多かった。彼らもそうだ。 「まあ同じ前線基地でもここは、東と違ってひまでいいよな。」 「反乱分子はいるけどな。共和国と違ってめったに攻めてこないし。」 「そうだな、あの世でもひまな生活をしてもらうか。」 自分達とは違う声がし、慌てて声のする方向を向く二人。 パシュ、パシュ しかし振り向くと同時に黒服の男の手にあるサイレンサー付きの ピストルが静かな音をたてて銃弾が発射される。 「うがっ……!!」 「ぎゃ!!」 二人とも額を打ちぬかれてその場に倒れる。即死だ。 その事を確認すると黒服の男は、無線機を取り出す。 「トゥー1よりバルダータルへ。監視台の兵士全員を消しました。 いつでもどうぞ。」 『了解、行動を開始する。』 その言葉を聞くとその場からすばやく去る男。
それと同時に基地レーダー管制室が爆発を起こす。内部からの爆発だ。 それを合図とばかりに巡航ミサイルによる爆撃が行われる。 この爆発で基地内は混乱を極める。 放たれた無数の光が、フォルナ基地へと吸い込まれていく。 基地内防衛のために警戒中のイグアンが次々の砲弾の餌食となる。 「警戒体制AからBへ移行。敵ゾイドの襲撃に備えよ。」 アルフレッドの声が基地の各場所に伝わる。 それに合わせて格納庫に待機していたイグアンそしてブラキオスが現れる。 レーダー管制室トレーダーがやられてしまったため、サイカーチスが 数機、基地を飛び立つ。 「現在、敵は500m付近を我が基地に向けて進行中。数はおよそ…うわっ!!」 基地への報告中、サイカーチス部隊が対空砲撃を受けて全機墜落していく。 「西ゲートに新たな敵を確認!!別動部隊のようです。現在第4防衛部隊と交戦中。」 「砲撃を行っていた部隊より離れた別動部隊も、こちらに向かっている模様。」 基地に入るためのゲートは2つあるがすべてのゲートが敵に襲われ、更なる混乱を起こしていた。
次々と戦況報告が司令室に飛び交う。 「どうやら敵さん本気で攻めて来たようだ。上層部への連絡は出来たか?」 通信士に確認するアルフレッド。 「手はず通りに動いてくれるとの事です。」 アルフレッドはそれを聞くと司令室を部下にまかして格納庫へと急ぐ。 「さて30分間ももつかな。」  愛機を見上げながらつぶやく。そういいつつも顔には余裕が見られる。 コクピットに座ると無線機を取り出す。 「こちらアルフレッド。これよりホエールの護衛に回る。2機もこっちについてこい。」 『了解。』 2機のハイ・アタッカーのパイロットより返事が返ってくる。 「第1戦隊発進する。」 そう告げるとアルフレッドの乗るセイバーが格納庫を出る。 それに続いてハイアタッカー2機も格納庫から出て行く。 彼らは、そのままホエールカイザーの護衛任務につく。 たまに現れる敵を難なく撃退する。 10分後、アルフレッドの下に通信が入る。 『少佐、大変です!!』 「何だ。」 『手はずされた味方部隊の援護が受けられません。』 「!?……どういう事だ?」 『はっ!それがフォルナ基地以外の基地でも敵が現れて、救援部隊が足止めを 食っているそうです。どうしましょう!?』 かなり慌てている様だった。声を聞いてすぐに分かるほどだ。 「全軍に各々すべての力を持って戦うよう指示するんだ。私も前線に行く。 この分だとこの基地ごと敵にのっとられかねん。」 「はい。」 「今攻めてきてやつらの中にコマンドウルフはいなかったか?」 「今のところ第304ゲーター部隊からの連絡の中には含まれていません。」 「なるほど了解した。これから正面ゲートに向かう。以上。」 そう言うと通信をきり、基地内に潜入した敵ゾイドを求めて走り出す。 但し、2機のハイ・アタッカーはホエールカイザーの護衛のために、 他の護衛部隊とともに残すことにした。 「コマンドウルフがいない分、こちらにも多少希望があるか。」 そうつぶやくと前線へと向かう。 一方、敵支援部隊は最初の位置から一向に動く気配が無かった。 「ミラルダさん、ちょっと苦戦気味です。支援砲撃を開始して一気に攻めましょう。」 レシーバーを持った男が正面ゲートの様子を見て状況報告する。 『こちらはあくまでほかの基地のおとりです。それぐらいがちょうどいい でしょう。他のゲートの様子も一進一退という感じみたいですし。 後はタイミングですね。』 レシーバーから女性の声が返ってくる。 「そうです。ですが本当に出られるのですか?」 『敵に襲われる味方を見殺しには出来ないでしょう。合図が出れば出ます。 それでは。』 通信が一方的に切られてしまう。 「あの人に何かあったら俺が殺されちゃうよ……。」 神に祈りたい気分の男だった。
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