一時の休息そして…
緑と砂漠、自然の脅威と恵みの両方を受けるフィルバンドル。 連邦の作戦を終えて一段落した町は、この上なく平和の様子を見せていた。 議事堂の前には衛兵が一人立っていた。 彼はまだ入ったばかりの新兵で今日が初仕事だった。 期待に胸膨らませ気合いが入っていた。 本当は二人で門番をするのが常識なのだが、もう一人はトイレに行っていた。 その議事堂へと向かう一人の少女がいた。 「こんにちは〜。」 笑顔で門番に挨拶するとそのまま中に入ろうとする。 「ちょ、ちょっと待ちなさい!!ここは子供が入るような所じゃないんだぞ。」 「はっ!?私はここに用事があるから来たんです。」 「一体何のようだね。」 「私は執政官をしているサラ・ミランです。」 「はい!?」 (そんなどう見ても高校生ぐらいにしか見えないのに…。) 新兵はその言葉に迷いに迷いまくる。 終いにはうなり始めた。 「……ちょっと何とか言いなさいよ。」 そこへトイレから帰ってきたもう一人の衛兵が現れる。 「そこで何をうなっている。」 考え込んで頭を抱える新兵どやすように言う衛兵。 「はっ!!先輩。ちょうどいい所に。この少女が議事堂へとはいろうとしたので静止したので ありますが、執政官というのであります。」 「何々…・こ、これはミラン執政官殿。おはようございます!」 サラの顔を見てぎょっとした衛兵は、慌てて敬礼をする。 それにつられて新兵も敬礼する。 (ま、まじだったのか……!!) 新兵の頭の中は、とんでもない事をしでかしたという事でいっぱいだった。 額には脂汗がだくだく流れ始めている。 「新兵の教育がなってないわよ。ちゃんと教えるべき事を教えなきゃ。」 「はっ!!以後気をつけます!!」 敬礼したままあやまる衛兵。彼とて今は心ここにあらずといった所だ。 必死に何とかこの場を切り抜けようとして頭はパニック状態だ。 「ところで……新兵君。名前は?」 「は、ハイ!!ジン・ヴァイといいます!!」 尋ねられた新兵人は甲高い声でこたえる。 「へぇ…ジン君ね。ジン君。ちょっと質問していい?」 何かを企んだような顔をして尋ねるサラ。 「は、はい!なんでしょうか!」 「私の事何歳だと思った?」 「!?何歳といわれましても……。」 まさかばか正直に高校生ぐらいだと思ったなんて口が裂けてもいえない。 滝のような汗をかいている気分のジン。 「本当に思った年齢で言わないとさすわよ。」 「刺す!?自分は刺されるのでありますか!?」 その言葉に驚いて青ざめていくジン。その横であーあ、という顔でジンを見る先輩の衛兵。 「………。」 ジンの言葉に答えずただ座った目つきでジンをにらんでいる。 (ど、どうする……ばか正直に答えても刺されそうだし…だからといって嘘ついても刺されるし ………お、おのれ関口ぃ!!) もう既に思考回路が混乱をきたしているジンの目はうつろだった。 「16ぐらいかと思いました!!」 その言葉を聞いて衛兵はいっちゃったよと言う顔つきをする。 「16ねぇ……。」 このサラの言葉にジンは心臓をわしづかみされた思いをする。 まじまじとナイフを見ているとふとジンのほうに目をやる。 「てい。」 目をジンのほうへ向けるのと同時に持っていたナイフをジンに突き出す。 「はぅ!?」 刺されたと思ってその場に座り込むジン。 「あははははははこれおもちゃよ。」 そう言うと手に持っているナイフの先を押す。 するとナイフの刃は簡単にひっこむ。 「お、おもちゃ!?」 ふさぎ込んでいたジンは思わず立ち上がる。 「…と、まぁ。このくらいにしておきましょうか。正直で結構。許してあげよう。」 そう言うと先ほどまでの表情とはうって変わり、にこやかな顔をするサラ。 「……!?」 もう何がなんだか分からないけども自分は助かったと言う安堵感でいっぱいのジン。 「おふざけが過ぎますよ、ミラン執政官殿」 衛兵が笑い出しそうな顔を必死に抑えてサラに話す。 「たまにはいいでしょ。それよりジンさん。私正直な人は好きよ。がんばってお仕事してね。」 そう言うとその場を後に議事堂へと向かうサラ。 さらの笑顔に心奪われそうになるジン。 「はぁぁぁぁぁぁ………。」 ようやく開放されたジンは、その場にへたり込むと大きなため息を吐く。 「ジン、大丈夫か?あの人に引っかかったのは、運が悪いと思ってあきらめろ。」 爆笑しそうになりながらジンに話し掛ける。 「……はぁ、しかしあの人は一体今何歳なんですか?」 「22だ。」 「はい!?お、俺より年上!?」 彼は今年19になったばかりである。 「あの人は童顔だからあまりそうは見えないだろ。ま、これからは気をつける事だ。」 「は、はい……。」 議事堂に入ったサラの目の前には、窓を隔てて大きな庭園と湖が見える。 その脇にウルトラが各坐している。 その各坐したウルトラの反対側の岸にはフィルバンドルの基地がある。
そこには改造ビガザウロ”クラウザンドジーク”が3機並んでいた。 そして、少しはなれた所でこれから偵察に向かおうとしている集団があった。 マーダの大軍だった。40機近くいる彼らの背には、レーダーと2連対空ビームが 装備されている。 ビガザウロやマーダなど、既に第一線から退いたゾイド達は、あまり資源のない 西エウロペ大陸では貴重な戦力である。 この大陸にしか生息しないゾイドもあるが絶対的にその個体数が需要を満たす 所まで達していないのが現状である。 そのため、各機体にはさまざまな改造が施されている。 たとえば改造ビガザウロのクラウザンドジークは、そのままでは戦闘に耐える事が出来ない ので、最近ガンスナイパー用に開発されたユニットパーツとバスターキャノンを装備(これら の武器は闇ルートから入手、または設計図を入手し各都市で生産されたもの。)し、砲撃力と 近接戦闘での戦力向上をはかっている。 彼女は窓から見える風景を見ながら廊下を歩いていく。 「サラ。」 ふいに呼ばれて前を向くサラ。 目の前にはピーリング議長が立っていた。 「叔父様。おはようございます。」 挨拶をすると軽く会釈するサラ。 「サラ、ここは議事堂だ叔父様は止めないか。まぁ、今更言っても直らんだろうが。」 少しあきれて言うピーリング。 彼女はミラルダの従兄弟にあたる。 彼女の両親は、彼女が7歳の時に盗賊に襲われて死亡している。 それ以来ピーリングに引き取られ、ミラルダとは姉妹のような関係となっていた。 「サラ、この間もシビーリからの召喚命令を断ったそうじゃないか。」 「はい、私はここを離れる気、ないですから。」 そっけなく即答するサラ。 ディーベルト連邦の首都シビーリには、連邦発起の半年前から連邦発足委員会が 置かれ、今後独立の為の協議や人材育成を主にしていた。 当然才女たるサラにも声がかかったが、彼女は今まで断り続けている。 「私としても兄上から預かった身だ。おまえの将来の事を思うとだな……。」 「言いたい事は分かりますが、私はこの町の為に自分の力を使いたいんです。 仕事がありますので……。」 そう言うと自室へと向かう。 「どうも私は娘には弱すぎるようだ……。」 サラの後ろ姿を見ながらつぶやくピーリング。 ミラルダの事でもそうだが、議長として威厳ある態度を示し、周りからの尊敬のまなざしが あつい彼も、娘には弱かった。 同時刻、結局数日遅れで基地を出発したロドリゲス隊は、一路フィルバンドルへと向かっていた。 ロドリゲスはホエールカイザー”ベッツハルド”に乗艦し、指揮をしていた。 「ベッツハルドの調子はどうだ。」 「はい、今の所順調です。ただベッツハルドの腹を満たすだけの燃料補給を 受ける事が出来なかった為に、あまり強攻策が取れないと思われます。」 今回の作戦は、ロドリゲス独自の作戦である為に、帝国本部は作戦時における武器弾薬 燃料の補給をさせてはくれなかった。 そのために今回の作戦で使用する武器弾薬燃料は、自前で調達してきたのだ。 武器弾薬は貯蔵分と調達分でなんとかなったが、燃料だけは必要量が調達できなかったのだ。 「まぁ燃料は敵基地から調達すればいい。どうせ使う人間がいなくなるんだ、我々が使った方が 放置するより有意義だ………。」 ブリッジに下士官が入ってくるとロドリゲスのもとへとやってくる。 「大尉、シュトルヒ隊の準備が整いました。その他降下部隊も準備は万全です。 後は命令があればいつでも。」 「よし作戦は4時間後に決行だ。シュトルヒ隊はいつでも発進できるよう射出口へ移動させろ。」 「はっ!!」 現在、共和国との交戦に大量のレドラーが投入されている為、比較的戦闘がない西部のベルン基地 にはほとんど配備されていなかった。 しかし、空軍をもたない基地は敵に制空権を取られてしまい、帝国領土を蹂躪されかねないとして 急遽これらの地域に第2級ゾイドであるシュトルヒが大量に配備された。 元々シュトルヒは、旧ゼネバス首都を防衛する為に作られた親衛隊専用機ではあったが、 後に大量生産された事もあり、異変後も生き残っていた。 そして今回の戦争により予備兵力として再び脚光を浴びたのである。 『作戦は4時間後に決行。シュトルヒ隊は全機射出口へ移動せよ。制圧部隊も 各機持ち場につきいつでも出れる準備をしておくように!!』 「シュトルヒを誘導しろー!!」 「備品をさっさと片づけやがれ!!爆弾でも踏んで誘爆なんかさせんなよ!!」 『バーカ、誰がさせるか。』 ベッツハルドの格納庫内は、新たな命令で活気づく。 格納庫内の片隅で静かに見守っている男がいた。 「おいセイロン、おまえも配置につかないのか。」 格納庫の端でたたずむセイロンに声をかけるパイロット。 「……………。」 無言のまま首を横に振る。 「おまえはいい奴なんだが言葉数が少ないのが問題だぞ。まぁお互いがんばろうや。」 「……ああ。」 そう言うとパイロットに目線を送り、組んでいた腕から手を出すと健闘を 祈るサインを送る。 パイロットが去るのを見た後、彼は目の前にあるダーク・ホーンへと目をやる。 (私はたかが私怨の為に使われるのか……。 しかし私は一兵士でしかない。命じられたまま動けばそれでいい……。) そんな事を考えながら時を費やすのだった。 この日もミラルダは、フィリアのそばにいた。 何故かこの日は彼女から離れる事に、不安を感じていたからだ。 二人はウルトラのいる湖で水遊びをしている。 この湖には危険な生物はいない為、町の人達にとって憩いの場となっている。 彼女たちのほかにも町の人たちが遊びに来ていた。 それから四時間後、ホエールカイザーから30機のシュトルヒが飛び立っていく。 「シュトルヒ全機発進しました。作戦行動に移ります。」 「よしベッツハルドを予定の高度にあげろ。」 通信オペレータからの報告を受け、操縦士に指示を出す。 「はっ。」 ベッツハルドは予定の高度まであがると作戦行動に移る。 同時刻、午後に行われる会議の為にピーリング以下の議員は、議会室に集まっていた。 「さて今後のこの町の防衛に関する会議だが、みなはどう思っておられるか率直な意見を交換して 頂きたい。」 「この都市は帝国領土と隣り合わせです。連邦に参加した以上は相手も黙ってはいないと思います。 早急な軍備増強を行うのが、今我々がやるべき事です。」 「いやあまり軍備増強を行いすぎると真っ先に敵の目標にされてしまう。ここは……」 ドォォォォォォォォォン……… 爆発音と地響きが会議中の彼らを襲う。 「なんだ!?」 バンという音とともに、慌てた様子で書記官が入ってくる。 「ピーリング議長大変です!!敵からの爆撃が!!」 「なんだと!?」 それと同時議会のすぐ横を赤い機体が過ぎていく。 「あれはシュトルヒ!?帝国軍か!?」 低空から進入したシュトルヒは、都市まで低空で進入し、直前で爆撃高度まであがった為 レーダーで発見されなかったのだ。 「自衛団は!?」 「先ほど防衛の為に動き出しました。偵察のマーダ部隊もこちらに引き返しています。」 「全ての機体を引きかえさせるな!数機は残して周辺の偵察をさせるんだ!! まだ敵はいるかもしれん。」 「わかりました。」 そう言うとその場をそうそうと走り去る連絡員。 「この話は後日とする。議員の方々は市民と非難を!!」 そう言うと慌ててその場を離れるピーリング。 それに合わせて各議員も同じようにその場を去る。 同じ頃ミラルダはこの空襲を見ると慌ててフィリアをシェルターの前まで連れて行く。 「いい?シェルターでおとなしくするのよ。私はこれから行かなきゃならないから。」 「うん、分かったよお姉ちゃん。」 笑顔で答えるフィリア。 「ごめんね、ついていられなくて。」 フィリアを抱きしめながら謝るミラルダ。 「大丈夫だよ。私だって11だよ。そんなに心配しないで。」 「……そうよね………。もう11だからそれぐらいの事の判断が出来よね……。」 そう言うとその場にフィリアを残し基地へと向かっていく。 シュトルヒは基地方面をありったけの爆弾を投下して爆撃すると早々に去っていく。 「何だ、去っていくぞ!?ただの空襲なのか!?」 自衛団司令は議事堂内にある防衛本部で対応に追われていた。 そこへサラがピーリングとサラが入ってきた。 サラはこの自衛団の補佐も行っている。 立場上補佐だが、実質司令官と言ってもいい。彼女はこちらの方面の才能もあるのだ。 「司令官殿。現状は?」 「ああ、サラとピーリング議長。今の所基地以外に被害はありません。 敵も早々に退却したと思われます。現在、敵が去っていった方向を警戒しています。」 「そこだけとは限らないから、360度全方位を警戒しないと。」 「分かっている。」 「司令!!敵から通信です!!」 通信士が慌てて司令に報告する。 「なに!?つなげろ。」 「はい。」 司令の命令で通信をモニター画面にまわす。 『こんにちは。フィルバンドルの諸君。私はベルン基地司令ロドリゲス・ワーグナーだ。 私はここに君たちに降伏勧告を知らせに来た。』 「なんだと!?」 司令部にいた一同がどよめき出す。 『我々はフィルバンドルを全滅させる事が出来る戦力を保持している。 私は戦争を避けたいと思っているのだがね………。』 不敵な笑みを浮かべて淡々と問い掛けるロドリゲス。 「今すぐ返答しろとはいわん。1時間の猶予をやろう。いい返答を待っているよ……。」 一方的に話すとそうそうに通信を切る。 「………あれはどう見ても攻撃を仕掛けてくる顔ですね。」 いやなものを見たといった顔付きでモニターを睨み付けながら言うサラ。 「ああ…今のうちに市民のシェルターへの非難をさせておく必要があるな。」 そういうと司令は椅子に座わり一息つく。 「我々も今のうちにシェルター室に移動しよう。」 「そうですね。」 「全員シェルター室に移動する。」 都市上空を巡回しているシュトルヒが都市の様子をベッツハルドに送信していた。 「あれは交戦体制に入る準備だ。仕掛けろ。」 つぶやくように言うロドリゲス 「はっ。シュトルヒ17号機に仕掛けさせろ。」 副官が通信士に指示を出す。 指示に従って1機のシュトルヒが急降下して、基地に対して攻撃を仕掛ける体勢をとる。 「て、敵が!?」 自分達に向かってくるシュトルヒに慌て始める。 そんな中、対空砲の操縦桿を握っていた一人の兵士が、向かってくるシュトルヒを見て 思わず発砲してしまう。 砲弾は見事にシュトルヒの胴体を貫く。 シュトルヒは煙を吐きながら都市上空を蛇行し始める。 「ば、ばか野郎!!何て事を…!!」 上官が兵士をどやしつける。 「す、すいません!!敵が近づいてきたもので思わず……。」 議事堂を移動しようとしていた一同の前を、一機のシュトルヒが黒煙をはきながら通過していく。 「何だあれは!?」 その事に驚いた一同は、目の前で蛇行するシュトルヒを見つめる。 シュトルヒはそのまま蛇行したまま都市の外の砂漠へ墜落した。
「移動中止!!各軍防衛体勢に入れ!!」 司令官の怒鳴り声とも思える声が響き渡る。 それと同時に司令部に緊急通信が入る。 『君たちは生きる事を望まないようだ……よってこれから攻撃を開始する。』 そういうと先ほどの通信と同じように一方的に通信を切る。 こうしてフィルバンドルでの攻防戦に火蓋が切られるのだった………。
あとがき
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