敗  走
西エウロペ大陸の北岸をひたすら東へと向かう集団があった。 彼らは傷つき、疲れの色を見せながら黙々と歩く。 そんな中一人の兵士が力尽き倒れる。 しかし、誰もそのことには気にもとめず、ただひたすら歩きつづける。 彼らは自分のことに精一杯で,他人のことにはかまっていられないのである。 彼らはひたすら思う。何故このような状況に追い込まれてしまったのだろう。 確実に勝てるとの司令官の言葉を鵜呑み(うのみ)にし、皆この作戦に参加した。 しかし結果は惨敗だった。 確かに作戦の当初は完全に自分達のペースだった。 しかし突如として現れたウルトラザウルスに翻弄されてしまったのがすべての 始まりだった。 その無敵とも思えるほどの絶大なる力。彼らはその力に屈してしまったのである。 フィルバンドルを後にしたベルン基地残存兵達は一目散にホエールカイザーの 元へと急いだ。 しかし彼らの見たものは、無残にも爆発し炎上するホエールカイザーだった。 絶望に打ちひしがれながらもその場で助かった者達や使えるものをかき集めて 彼らは東にあるフォルナ基地へと向かい始めたのである。 生き残ったのは、セイバータイガー2機、レブラプター8機、ダーク・ホーン1機、 一般兵わずか417人である。 兵力としては残ったほうではあるが、当初参加した部隊は、アイアンコング3機、 セイバータイガー3機、ダーク・ホーン3機、レッド・ホーン2機、モルガ40機、 レブラプター21機、イグアン24機、ヘルキャット9機、シュトルヒ30機、 一般兵3700人だったため、戦力は半分以下となっていた。 そんな中、生き残ったダーク・ホーンは常に先頭を行く。 背中には小銃を持った兵士が何人も座って小銃を構えている。 これは人員の早期輸送のためと対空警戒のためであった。 その後ろには何台ものゾイドとトラックが続く。 徒歩で歩いているものは数十人いるが、彼らのせいで部隊全体のスピードがあがらないので、 見捨てられているような状況である。 先頭を歩くのは、ダーク・ホーンのパイロットセイロン。彼はひたすら先頭を歩く。 だが彼が指揮官ではない。 この部隊を現在指揮しているのは、ロドリゲスの副官であったパーカレッド・クラウで ある。 彼はウルトラキャノン砲が命中した時、ロドリゲスの命により格納庫にいて指揮をしていた。 今回ホエールカイザーの生き残りのものはほとんどが格納庫にいたものたちだった。 味方機の武器の補充や回収の為に格納庫のハッチが開かれていたのが要因である。 生き残ったパーカレッドの指揮のもと、東にあるフォルナ基地に向かうこととなったのである。 そして彼らの向かう先の数十キロ先に村があった。 この村は周囲の戦争など関係なく時が流れている。 西エウロペの北岸地帯は漁業が盛んでこの村も漁業によって生計を立てていた。 その村脇にある小高い丘がある。 そこに迷彩シートをかぶせた3機のゾイドが隠されていた。 ゴジュラスMK−U、マンモス、シールドライガーの3機だ。 彼らの足元から去るもの達がいた。 「ねこた軍曹、次は何処に行きますか?」 ジープを運転しながら助手席の人物に問い掛ける女性。 「そんなもの適当だ。」 「……適当って、そんなんじゃぁくいっぱぐれちゃいますよ〜。」 「そん時はそん時だ。隊員A。」 「…この猫侍が……。」 ぼそっと愚痴をこぼす隊員A。 「……そんな事言ってると自眠刀が黙ってないぞ。」 「す、すいません……。」 慌てて誤るが内心は“何処かの党のぱくりのような刀、使ったところを見たことがない。 錆びてるんじゃなかろうか。”等と思っていた。 もう一人はそのやり取りを黙ってみていた。 彼らのジープは村へとひた走り到着する。 「さーて宿屋で風呂にでも入りますか軍曹どの。」 「おれはいやだ。」 「何言ってるんですか。私が入れてあげますから♪」 「俺は風呂が嫌いなのを知っていていうか!!」 「だめです!!」 強気の態度をとる隊員A。 「き、きさま上司に向かって口答えするとは…!!はうっ!!」 怒り心頭のねこたは、思わず脇に差している自眠刀に手をかけるが、それと同時に 隊員Aのみぞおちがきまる。 「わがままばっか言ってないではいりますよ!」 「いやじゃぁぁぁぁ風呂はいやじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」 足を持たれて引きずられていくねこた。 引きずられながら道に転がっている石でこぶを作る。 そのたびに彼は“にゃ”とつぶやくのだった。 夜が明けてベルン残存兵はようやく村が見えるところまで来ていた。 夜どうし行進していた部隊は、村から数キロはなれた場所で足を止めていた。 何十時間ぶりの休みに兵達の顔に安堵の色が見える。 なぜならトラックやゾイドの背中に乗っていても、精神的な疲れや揺れなどで ひどく体力を消耗するからだ。 そんな中、レブラプターの機体に座るパーカレッドは、機体に装備されている 望遠カメラで村の様子を伺っていた。 「どうやらただの平和ぼけした村のようだな………。作業用ゴドスが3機か。 これならレブラプター部隊だけで十分か。」 ピーッ、ピーッ コックピット内に無線通信を受信したことを知らせるアラームがなる。 「こちらパーカレッド。」 『…中尉。周辺に他のゾイドは確認できませんでした。以上です。』 「了解…………やるか。」 そう言うとパッカードは通信機を操作して部隊全員に指示がいくように設定する。 『こちらパッカード。これより鴨猟(かもりょう)を開始する。繰り返すこれより 鴨猟を開始する。 目標の鴨は前方にある、好きにやってこい。ただし食料などの確保が最優先だ。以上。』 その言葉を聞いた兵士達は浮き足立って我先にと村へと向かいはじめる。 「俺が一番ではいるんだ!!」 「食いもん!!」 「何でもありとはさすが副官だぜ!!」 口々に叫びながら村へとひた走る兵士達。 一般兵を飛び越えてゾイドやトラックが村へと向かう。 ちょうどその頃村でも異変に気づいていた。 地響きをたてながらゾイドや人々が怒涛のように村へと向かってくる一団が 近づいてくる。 「なんだあれは!?ディーベルトの連中じゃなさそうだぞ。」 さすがに危機感を抱いた村人達は我先に村を逃げたり、家に隠れたりする。 「何だ朝から騒々しい………!?何だあれは………。」 地鳴りを聞いて早く目覚めてしまったねこた軍曹は窓の外を見て驚く。 「隊員A、B!!起きろ!!テロックスを出すぞ!!」 「もうおなかいっぱいで食べれません・・・・・・・。」 目をこすりながら寝ぼけた顔つきで、ねこたに寝ぼけたことを言う隊員A。 ガブッ!! 「いたたたたたたたた!!!な、何するんですか軍曹!!」 頭をかぶりつかれた隊員Aはかまれたところを押さえながら文句を言う。 「窓の外を見ればわかる。」 そう言うと軍曹は足早に部屋を出る。後を追うように隊員Bも後に続く。 「げっ!!何の集団!?あっ!!軍曹、隊員B!置いてかないで!!」 そう言いながら慌てて部屋を出る隊員Aだった。 虚突猛進で突っ込んでくるベルン兵を見ておびえた作業用ゴドスのパイロットは、 あっさりとレブラプターの餌食となる。 それを合図にベルン兵の略奪が開始される。 「まずは食糧庫を押さえろ!!その外は後だ!!」 もうその姿は軍隊ではなくただの盗賊と成り果てていた。 それを遠巻きに見ているものがいた。セイロンである。 彼はパーカレッドの命令があっても動こうとせず村の外で待機していた。 「………。」 野党と成り果てた帝国軍兵士をモニターごしに見て、とても不快そうな顔つきをする セイロン。 しかしその不快な顔も次の瞬間には真剣な顔つきへと変わる。 ゴジュラスが現れたのだ。 「ご、ゴジュラスだ!!!に、逃げろーーーーーーーー!!」 ゴジュラスを見た兵士達は恐怖にかられ、我先に村を逃げだそうとする。 機体を降りていたパイロット達は慌てて自分の愛機へと戻る。 「報告!!村にゴジュラス出現!!繰り返すゴジュラス出現!!」 この報告はすぐさまパーカレッドの元へと送られる。 「セイバー隊、奴を撹乱しろ!!ゴジュラス1機ならばこの数で何とかなる!!」 パーカレッドの指揮のもと、セイバーがゴジュラスを囲み込み、牽制をかける。 そんな中現場にいないセイロン機を見て慌ててセイロンと通信回線をつなぐ。 「セイロン貴様何故そんな所にいる!!早く戦闘に参加しろ!!」 パーカレッドの怒りがセイロンに向けられる。 「………。」 セイロンは言葉も無くダーク・ホーンを動かす。 ゴジュラスがその長い尾を利用して振り払おうとするが機動性のあるセイバーは ことごとく交わしていく。 そしてレブラプターが遠巻きではあるがゴジュラスに攻撃を加える。 「これなら楽勝だ。」 鼻歌交じりに機体を操縦していたセイバーのパイロットにはまだ余裕が見られた。 しかし、次の瞬間強い衝撃を受けセイバーはその場に倒れ込む。 「な、なんだ!?」 突如としてうけた衝撃に何とか耐えたパイロットは、自機の計器類を見る。 「くそだめだ!!」 そう言いながらコンソール叩く。そして動かないことを確認するとコックピットハッチを 強制排除し外に出る。 「な、なんだあれは………。」 セイバーを沈黙させたのは黄金の鬣(たてがみ)を持つシールドライガーだった。
シールドはそのまま次の獲物を見つけてその場を去る。 突如として現れたシールドに混乱をきたす帝国軍。 それの様子を見てゴジュラスが長い尾をレブラプターに向けて振る。 シールドに気をとられていたレブラプターのパイロットは、尾の接近に気づかずまともに 攻撃を受けて機体を四散させる。 そして何処からともなく狙い澄まされた一撃がレブラプター数機を襲う。 「何だ!?何処から狙撃がくる!?」 その言葉にこうおするかのように急にセイロンの乗るダーク・ホーンが丘に向けて ハイブリットバルカンをうち放つ。 ハイブリットバルカンの威力で丘が崩れ落ちる。 そこから這い出てきたのはマンモスだった。 「まだ敵がいたのか!!マンモスはセイロンに任せてシールドをやるぞ!!」 そう命令を下し、隊列の最後尾につくパーカレッド。 マンモスを発見されて動きが止まったシールドに向けてビーム砲が放たれる。 ビームはシールドの頭部に吸い込まれていく。 「何だと!?」 パーカレッドの驚きの声が響く。シールドの頭部はシールドを張っていない状態なのにビーム を跳ね返してしまったのである。 攻撃に気づいたシールドは即座にレブラプターに向けてひた走る。 隊列を組んでいたレブラプター2機は、シールドの突撃に慌ててその場を逃げ出す。 「き、貴様ら逃げるな!!………う、うわぁ!!!!!!」 真っ正面に目を向けたパーカレッドの目の前には、サーベルの牙が鈍い光を見せていた。 その脇で残り1機となったセイバータイガーとゴジュラスの攻防がつづいていた。 通常よりすばやい動きを見せるゴジュラスに翻弄されるセイバータイガー。
「何だこのゴジュラスはっ!?ほかのゴジュラスとは動きがまるで違う!!」 セイバーのパイロットの脳裏に今まで戦ってきたゴジュラスが思い浮かぶ。 彼は、今まで10機近いゴジュラスを撃破してきた兵(つわもの)だった。 「こんなところで死んでたまるか・・・・このぉ!!」 2連ビームをゴジュラスの足に向けて叩き込む。 しかしゴジュラスはすり足で軽々とよけてしまう。 セイバーのパイロットにはあせりが生じはじめ、じりじりと精神的に追い詰められていく。 「そろそろか?」 そう言うと笑みを見せセイバータイガーに突っ込むねこた。 そして尾をセイバーに振り下ろす。何とかその一撃をかわすセイバー。 しかしそれと同時にゴジュラスの腕がセイバーの首根っこをつかみそのまま持ち上げる。 「くそっ!!はなしやがれ!!」 必死にもがくセイバーは、ビームをゴジュラスに向けて乱射するがびくともしない。 ゴジュラスはそのまま首根っこを握りつぶし、セイバーの頭部と胴体を二分してしまう。 それと同時にゴジュラスの咆哮が鳴り響く。 そしてねこたがふと丘のほうに目をやるとダーク・ホーンと戦闘しているマンモスの姿が見えた。 ダーク・ホーンはクラッシャーホーンをマンモスの鼻に突き刺し、そのままマンモスの巨体を その小さな体で放り投げる。
放り投げられたマンモスは地響きを立てて倒れこむ。 舞い上がる砂埃。 そしてとどめのハイブリットバルカンの照準をマンモスに合わそうとした時、ダーク・ホーンめがけて ゴジュラスのバスターキャノンが放たれる。 セイバーを倒したねこたは、追い詰められているマンモスの援護に回る。 「…………くっ!!」 うめきをもらしながらマンモスに向けて3連ミサイルを発射する。 体制を立て直したマンモスは、それを軽々とよける。 しかしマンモスをそれたミサイルは空中で爆発を起こしマンモスのいる一帯を煙で覆う。 ミサイルの正体は煙幕だった。 マンモスを一時的に黙らせたセイロンは、ゴジュラスにハイブリットバルカンを放ちながら 突撃する。 ゴジュラスもハイブリットバルカンをかわしながら身構える。 そして濃硫酸砲を敵コックピットに向けて発射し煙幕代わりとする。 「しまった!!煙幕か!」 不意をつかれてひるむねこた。 その時を狙ってダーク・ホーンの一撃がゴジュラスの足に食い込む。 「そこか!!」 衝撃をうけて敵の位置を確認したねこたはゴジュラスの尾を振る。 「………!!」 衝撃を受けダーク・ホーンは吹き飛ばされる。 数百メートル飛ばされ沈黙するダーク・ホーン。 「やったか!?」 しかし、ねこたの言葉に逆らうかのように立ち上がるダーク・ホーン。 「…………これ以上は無理か。」 機体の損傷チェックをかけ、戦えないと判断したセイロンは煙幕を張ってその場を離脱する。 それに乗じてシールドに追い詰められていた2機のレブラプターもその場を去る。 「ふぅ……行きやがったか。なかなか骨のあるやつだったな。」 安堵のため息を吐くねこた。 「軍曹〜、お金にもならないのにどうしてたたかいを?」 「それはこの俺様の眠りを妨げた報いとディーベルトに兵隊を引き渡せばお金に なるからに決まってるだろ。はっはっはっ。」 (……お金はわかるど、たかだか眠りを妨げられたからって………。) 隊員Aの不安をよそにねこたの高笑いは続く。 一方何とか生き延びることが出来たセイロンとその外のメンバーは、黙々と東へと 向かうのであった。 明日の希望を夢見て・・・・・・・・・・。
後書き7
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