死を招く少女4
アルフレッドは自室に戻るとペンダントを眺めていた。 ペンダントはふたが開くタイプのもので、開きっぱなしになっていた。 中には幼い少女と年老いた男性が並んだ写真が入っている。 「・・・・家族なんだろうな。やはり・・・・。」 そうつぶやくとふいに立ち上がり自室を出る。 そしてそのまま捕虜収容施設に向かう。 「やはり当人にかえさんとな。」 意を決意したように言うと苦笑しつつ、収容所へ向かう。 ミラルダが捕虜となってから4日が過ぎたが、依然口を開くことはなかった。 それどころかろくに食事もしないのだ。 今、彼女の心はあの日から時を刻む事をやめている。 肉親を失ったフィルバンドル攻防戦のあの悲劇の時から。 それは彼女が目の前の現実から逃避し、自らの殻に閉じこもっていた。 そしてその時以来、彼女はその奥底に燃える復讐心のみで行動していた。 しかし、アルフレッドに敗れ、囚われの身となった今では抜け殻同然であった。 今は、尋問の時以外はベッドの上でただじっと座って、鉄格子の向こうにある 空をぼんやりと見続けていた。 その目の焦点はどことも合わすことなく、誰が声をかけてもまったく聞こえて いないようだった。 敵兵とはいえ、そんな彼女の悲しそうな表情を見て監視員たちも心配するよう になっていた。 アルフレッドも捕虜となってからミラルダに何度か会ったが、何も話しては くれなかった。 そんな事もあってか手にしたペンダントで何か話すきっかけがつかめないかと 内心期待していた。 そしていつもどおり一人で独房に入るとミラルダに近づく。 「・・・・やはりそうやって外ばかりを見ているんだな。」 しかしアルフレッドが話し掛けても、ミラルダはぴくりとも動かない。 (やはり振り向いてもくれないか。) 内心残念がる。 「・・・今日は君に届けものを持ってきた。」 そう言うとポケットからあのペンダントを取り出す。 目の前に出されたペンダントを見ても最初は反応を示さなかったが、 しばらくして写真に気づくと彼女の瞳に生気が戻る。 それは失った輝きを取り戻した瞬間でもあった。 ペンダントをアルフレッドから受け取ると、その瞳には涙が溢れえずきながら 泣く。 そしてアルフレッドの服をつかむとすがるように大きな声で泣き始めた。 その声を聞いて何事かと兵士が駆け寄るが、状況を察してその場を後にする。 「・・・・。」 自分にすがりながら泣くミラルダに無言で戸惑うアルフレッド。 彼自身も突然のことで気が動転していた。 そして彼女が泣き止むまでその場で立ち尽くしていた。 しばらくして落ち着きを取り戻した彼女は、自分のことをアルフレッドに 話し始めた。 アルフレッドにすがるように話すミラルダ。 とにかく自分の気持ちを誰かに話して楽になりたい。そんな気持ちからだった のだろう。 その話を聞いているうちにアルフレッドはそんな彼女に親しみを持つように なっていく。 「それでは私はこれにて失礼させてもらうよ。」 そう言うと独房から出ようとするアルフレッド。 「・・・・・・あの・・・・・。」 去ろうとするアルフレッドを不意に止めるミラルダ。 「・・・なんだ?」 呼び止められミラルダのほうを見る。その憂(うれ)いた表情を見ていると 抱きしめたくなる衝動に駆られる。 が、そこは平静を装って答える。 「今日は、本当にありがとうございました。・・・・・・また会っていただけま すか?」 顔を少し赤らめて少しうつむきながら言うミラルダ。 「・・・・ああ、いつでも。」 そう言うとアルフレッドはその場を後にした。 その後ろではその言葉を聞いてうれしそうな姿のミラルダがいた。 翌日、アルフレッドは司令室に呼ばれる。 「おうアルフレッド、どうだい?眠れる美女とはうまくいっているか?」 コーエル大佐が笑みをこぼしながらからかうように言う。 「・・・くだらない事を言うために呼んだわけじゃないでしょう。」 少しむっとした顔をするアルフレッド。 眠れる美女とはミラルダの事だ。 「てめぇはたまには俺の冗談に付き合え。で、その眠れる美女さんの 今後の身の振りが決まった。」 さっきまでの表情とうって変わって真剣なまなざしとなる。 「・・・!!それで彼女はどうなるのですか?」 「彼女はディーベルトの高官にかかわる人物だと分かった。 そのため、本国に護送する事となった。これらの理由から一度ニクシーに 移送する。その後の彼女の扱いはどうなるかは分からんが。」 「いつですか?」 コーエルにつめよるアルフレッド。 「戦況をかんがみて明日にも移送せよとのことだ。」 「・・・・・・そうですか。」 「言っておくがお前をその護衛にはできんからな。」 アルフレッドか次の言葉を発しようとする前に言う。 「こればっかりは勘弁してくれ。お前にここを離れられると守りが薄くなる。 分かるだろそれぐらい。」 「・・・・分かっています。」 そういわれてしまっては何も言う事は彼にはできなかった。 「以上そのことを彼女に伝えてくれ。」 「・・・分かりました。」 司令室を後にしたアルフレッドは収容所のほうへと歩き出す。 「おい!!今度はゾイドで決着をつけてやるぜ・・・!」 そう言って現われたのは、ロックだった。 「・・・・・何のようだ。君にかまっている暇はないのだが。」 またかという顔をして言うアルフレッド。 「ちっ!女にかまっている暇はあるくせによ。そんなに俺と戦うのが 怖いのか?」 挑発するロック。 「・・・・・確かに。理由はともかく、君にかまっている暇はないな。 さあ道をあけろ。」 そう言うと笑って見せる。 「いやだね。俺の気が晴れるまでは相手をしてもらうさ。」 いやみな笑顔を見せながら言うロック。 「しなかったらどうする気だ?」 「そうさな。お前さんがご執心のあの女でも・・・・・。」 ロックがそこまで言うと、アルフレッドの手はいつの間にか胸倉をつかんでいた。 「・・・・・・きさま。」 鬼の様な形相をするアルフレッド。 「・・・へへどうだい?する気になったかい?」 人をさげすんだ目でアルフレッドを見るロック。終始不気味な笑顔を見せる。 「・・・・・・・・分かった。勝負すればいいんだな。」 そう言うとロックを放す。 「ようやく納得してくれたかい。じゃあ今すぐ自分の機体を外にだしな。」 「ああ、分かった。」 そう言うとアルフレッドは格納庫のほうへ向かう。 格納庫に向かいながら無線でコーエル大佐と連絡をとる。 「・・・・・・・・はい。火器は使用禁止ということで。了解しました。 では司令塔でゆっくりと見物でもしていてください。それでは。」 そう言うと無線をきる。 これから私闘をするに当たり、コーエル大佐に許可を取ったのだ。 格納庫に入ったアルフレッドは、愛機に火を入れる。 「あいつは自分の面子しか考えていないのか・・・・。」 そうつぶやくと基地中央にある輸送船発着場に歩み寄る。 そこにはすでにジェノサイドが今や遅しと待っていた。 「待ってたぜ・・・。このジェノサイドに勝てると思うなよ!!」
そう言うと一気にグレート・セイバーに向けて突進する。 「武器は使用禁止だ!!それだけは心がけろ!!」 司令塔からマイクロフォン越しにコーエルの声が響く。 「ちっ!!」 いきなり撃つつもりだったロックは舌打ちをする。 そして戦法の変更を余儀なくされたロックは、セイバーの近くまでよるとその 大きな口をあけ噛みつこうとする。 しかし寸前でよけられてしまい、逆にセイバーからストライククローの一撃を 見舞われる。 地べたを這いつくばるジェノサイド。 しかし、すぐ体制を立て直して尾の一撃は前足に当たる。 「くっ・・・・だが!!」 そう叫びつつ、機体をジェノサイドに飛びつかせる。 ジェノサイド背中に乗ると首筋に噛みつく。 雄たけびを上げながら必死に振り落とそうとするジェノサイド。 だがセイバーも必死振り落とされまいとする。 そして間を置いて牙を首から抜くと、振り落とされるように飛び降りる。 「な、なめるなぁ!!」 叫び声を上げならセイバーに迫る。 また自慢のキラーバイトファングで噛みつこうとするが、今度のセイバーは しゃがんでそれをかわす。 するとセイバーがジェノサイドの懐に頭部を入る形となった。 「なにぃ!?」 「うぉぉぉぉぉ!!!」 セイバーはそのままの体勢でジェノサイドを持ち上げて一回転する。 まるでブレーンバスターをかけたような形となる。
ジェノサイドはそのまま吹き飛び、少し離れたところに大きな衝撃音を立てる。 投げたセイバーはその場で回転して着地する。 ジェノサイドは動く気配を見せない。 「・・・・・終わったか。」 動かないジェノサイドを見てそうつぶやくアルフレッド。 しかし、しばらくして起き上がってくる。 「く、くそぉ・・・・!!」 「その根性だけは立派だな。」 起き上がろうとするジェノサイドを見て笑みをこぼす。 「そこまでだ!やめておけロック。」 コーエルが制止をかける。 「くっ・・・・う、うっせぇ!」 衝撃で痛めた頭部を抑えながら毒舌を吐く。 ウーウーウー・・・・・ ロックが機体を立て直している最中に基地中に警報が鳴り響く。 「敵航空隊をレーダーにて探知。数は20機以上。全機スクランブルを要請し ます。」 レーダー監視員がコーエルに報告する。 「レドラー全機、スクランブル!!各部隊も敵の攻撃に備えて所定の位置へ もどれ!!これで私闘は中止だ!!いいな!!」 警報に続き司令塔から、敵機を知らせる放送が鳴り響く。 「アルフレッド!!お前は前衛の指揮をセイロンととれ!!ロック!! お前は戦いたかったら違う機体を使え!!その機体の状態じゃあ無理だろ!」 この時とばかりにコーエルの采配がさえる。 「了解。セイロン。聞いたとおりだ。先に行く。」 そう言うと単身前衛へと赴く。 「けっ!これぐらいの損傷でくたばるジェノじゃねぇ!!」 そう言うとロックはアルフレッドの後を追って前衛に回る。 そんなロックの行動に見向きもせずに、あわただしく司令室で檄を飛ばす コーエル。 基地内があわただしく動き始めて5分後、共和国領内から飛来したプテラス 23機が、基地上空に差し掛かる。 スクランブルで何とか飛び立ったレドラー5機が、プテラスを発見し迎撃に赴く。 護衛機である戦闘タイプのプテラス8機が、爆撃隊から離れてせまるレドラー の前に出る。 戦闘機同士の空中戦が展開する。 数で圧倒するプテラスを何とかしのぐレドラー。
しかしその間にレドラーをすり抜けた爆撃機が空爆を開始する。 まず基地の格納庫が狙われる。 ピンポイント爆撃のために面白いようにミサイルが格納庫に吸い込まれていく。 そして爆撃された格納庫には発信準備中だった数十機のゾイド達が格納庫から 出る事かなわず、無残なその姿をさらす。 空襲前に格納庫から出た十数機が対空戦闘を行う。 離陸中のレドラーを発見した数機のプテラスが、レドラーの後方について バルカンをレドラーに向けて打ち放つ。 離陸中のために思うように動けないレドラー3機は、その機体を地上へと押しつぶした。 しかしレドラー残り3機が舞い上がる。 舞い上がったレドラー3機は、一気に旋回して追撃しようとするプテラスを 難なくかわし、自慢の切断翼でプテラスの翼を切り裂く。 浮力を失ったプテラスは、木の葉のように5機のプテラスが地上へと落ちて いく。 それを確認するとさらに高度を上げて爆撃を阻止しにかかる。 しかし必死のレドラーの防御をすり抜けて、爆撃は次々と行われていく。 そして一番大きな格納庫への照準を合わせたプテラスが、ミサイルを放つ。 しかし。 格納庫から無数の銃撃がミサイルを襲い、ミサイルは空中で四散する。 「格納庫からミサイルを空中で迎撃しただと!?」 その状況を見てプテラスのパイロットは驚愕する。 そして間をおかず格納庫の屋根越しに、銃撃が彼のプテラスを襲う。 「な、なんだ!?お、おわっ!!」 銃撃を喰らい、煙を引きながら墜落していくプテラス。 その格納庫からはアタック・セイバーがゆっくりと姿をあらわす。 そして格納庫を守るように対空射撃を続ける。 見る間に4機のプテラスが煙を引いて退散していく。
空中でも数のそろったレドラー部隊が反撃に転じる。 一気にプテラスを追い詰め、次々と切り裂いていく。 そして爆撃し終わるとプテラスはさっさと逃げ帰えっていった。 「次が来るぞ。今のうちに敵の地上部隊の発見を急げ!!今回の敵さんは 本気だ!!」 コーエルの声が基地内にけたたましく響き渡る。 次の攻撃に備えて無事な機体は尻を叩くようにして格納庫から出て、基地全体 を守る。 そして損傷のないレドラー7機もすぐさま飛び立ち、警戒態勢に入る。 先ほどの戦闘で全レドラー37機のうち撃墜されたのが6機、地上で機銃掃射を 受けて破壊されたのは、16機にものぼった。 地上部隊も全部隊の13%を爆撃で失ってしまった。 全機が配置につく間にレーダーは第2陣を捕らえていた。 「次が来た!各員の健闘を祈る・・・。」 コーエルのその言葉が、次の戦闘の合図だった。
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