死を招く少女7
廃墟と化したバルハナ基地を見回る2機のガンスナイパーがいた。 ゆっくりとそして慎重に前進する。 後ろの方では、ようやく復旧したばかりの司令塔が光をはなっている。 近くには仮やぐらが作られ、そこからサーチライトがあたりを照らしていた。 「これ以上探してもできやしないと思いますが。」 「残党がいないと言い切れるか?いいから黙って監視しろ。」 バルハナ攻防戦から2日が経っていたが、いまだ基地機能は回復していない。 徹底した攻撃を行った上、帝国軍が撤退の際にさまざまな所を爆破していった ためだった。 その為に、毎時間の巡回は欠かせないものとなっていた。 「!?」 「どうした?」 「いえ、今レーダーにかすかな反応が・・・・。」 不思議そうな顔をして答えるパイロット。 「何?万が一のことを考えて司令部に連絡を・・・・。」 がっ・・・・。 隊長が言葉を言い切る前に鈍い音が聞こえる。 「何だ!?」 音のした方向を見ると、寮機が無残な姿をさらしていた。 「い、いつのまに・・・。」 戸惑うパイロットの前で、緑色に光るものが近づいてくる。 「・・・・・な、何なんだ・・・・。」 次の瞬間、ガンスナイパーの首に巨大な牙が襲い掛かる。 唐突の事に、ガンスナイパーは悲鳴も上げることなく動かなくなり、パイロッ トもなすすべもなく気絶する。
一気に仕留めるとその場に吐き捨てる。 「ち、こんなくだらない相手だと腕がさびるぜ。」 そう口をこぼすと機体を降り、ガンスナイパーのコクピットに向かう。 キャノピーを開くと、すかさずパイロットに向けて銃を放つ。 そして遺体となったパイロットを、邪見に扱いながら通信機器をいじくる。 「・・・・・特にこれと言った情報はなしか・・・・。ま、2日ぐらいじゃ 敵さんの今後の行動なんてわからんか。となるとさて次は・・・。」 そう言うと次は情報端末機を調べ始める。 そしてポケットから取り出した機器を端末と接続する。 「色よい返事をくれや・・・・・お、でたでた。」 端末に表示されたものを見て笑みを浮かべる。 「・・・・・なるほど。敵さんそんな事を考えてたのかい。さっさと上に報告 しないとな。後はあいつのその後を調べるだけだ。」 そう言うと、ガンスナイパーのコクピットを出て自分の機体へと戻る。 「これで俺の仕事は済んだ。アルフレッド後はてめえだけだ・・・!!」 そう言うと不気味な笑みをこぼすロックだった。 「で、コクン大佐。ここ数日でここら一帯の制圧をしたわけだが、本部の作戦 はまだ始動しないのか?」 ソファーに座った髪を後ろでくくった男が言う。 「なに、もう始まっているさ。しかしラーマ大尉、お前さんには北での作戦よ り、今後は西部もしくは南部へと進行を手伝ってもらう。」 ワインを片手に言うコクン。 「なぜ?」 不服そうに答えるラーマ。 「なぜも何も北の作戦はウルトラが中心だ。我々が行ったところで、何もする事 はない。それより西部にかなりの帝国軍が撤退している。ニクシー基地が 陥落した際の最後の悪あがきをするためだろう。後、問題はディーベルトだ。」 そう言うと顔をゆがめる。 「??ディーベルトみたいな弱小国家が、そんなに気になるんですかい?」 「そうだな。気になるといえば気になる。最近、彼奴らの議会では過激派の連 中が、議会で他大陸の軍を追い出せといきまいているそうだ。」 「それは勇ましいこった。」 ふっと笑うラーマ。 「何かしら裏があることは明白だ。スパイに潜り込ませているが、なかなか尻 尾を出さんのだよ。」 けげんそうな顔で言うコクン。 「・・・・とりあえずそっちのほうは分かり次第という事で、まずは西部の帝 国軍を叩くのが先ですな。」 「作戦の了承をえ次第、動いてくれ。」 「はっ!!」 敬礼をすると司令部室を去るラーマ。 「どうやら裏工作はなかなかうまくいかんようだ・・・・。」 誰にも聞こえない程度の声でつぶやくコクンだった。 それからさらに数日後、バルハナより数十キロはなれたところに森林地帯があ った。 そこに身を隠すように2機のセイバーが見える。 月夜が神々しく森林を照らす。 その下ではこうこうと焚(た)き火が焚かれており、それを囲むように3人の 男女がいた。 一人の男性は、女性の膝に頭を置いて横になっており、彼女はじっとその男性 を悲しい表情をして見つめていた。 もう一人は焚き火を世話している。 「・・・・・私は人を不幸にしてしまうのでしょうか。・・・・・・私は・・・・・。」 眠る男の髪をなでながら、誰に言うでもなく口を開く。 「・・・父も私をかばって死にました。この人も私のことをかばって・・・・・・。」 そこで言葉が詰まる。 「・・・・・・・。」 もう一人の男は黙って、焚き火の世話をしていた。 自然と女性の目に溢れる涙。 その涙が頬をつたわり、そしてひたひたと男の顔に落ちていく。 焚き火の世話をしていた男は、何かに気づくとその場を静かに立ち、愛機であ るセイバーの元へと向かう。 泣く女性の頬にすっと手がかぶさる。 「!?」 「・・・何をそんなに泣く事がある?。」 泣くミラルダに向けて笑顔を見せる。 「よかった・・・意識を取り戻されたんですね。」 安堵の表情を見せるミラルダ。 アルフレッドは、自分で起き上がるとミラルダと向き合う。 「本当は、君を無事故郷へ送るつもりだったんだが、とんだ心配をかけてしま ったようだ。」 苦笑いをしながら言うアルフレッド。 「そ、そんな事ありません。私を心の淵から救い出してくださったのはあなた です。私のほうこそお礼を言わなければなりません。」 「お互い様か・・・・うっ・・・・。」 ふいに右わき腹付近に痛みが走る。 「だ、大丈夫ですか!?」 心配になって駆け寄るミラルダ。 「あばらでも痛めたか?・・・この手当ては君がしてくれたのか?」 脇を抑えながら訪ねる。 「いえ、あの黒いサーベルの方が・・・。」 その言葉を聞き、振り向くアルフレッド。 その先にはアタック・セイバーがたたずんでいる。 「・・・・・セイロンか。まったくあいつは・・・・・。」 苦笑するアルフレッド。 そこへセイバーから降りてきたセイロンが、ゆっくりとアルフレッドの元へと やってくる。 「・・・セイロン、なぜ部隊を率いて撤退しなかったんだ?」 「・・・・・・先導はした。自分が用済みだと感じたから戦場に戻った。ただ それだけだ。」 淡々とした口調で言うセイロン。 「攻めないで上げてください。この方が戻ってきてくれなかったら私たちは 助からなかったんです。」 割って入るミラルダ。 「心配しなくてもいい。どうこうしようというわけではないんだ。」 そう言うとおもむろに立ち上がり、セイロンを見る。 「セイロン俺の機体は?」 「・・・・隊長の機体は基地に放棄してきた。あれだけ蜂の巣にされては動き ようもない。」 淡々と答えるセイロン。 「そうか・・・。」 セイロンの言葉を聞いて悲しみの表情を浮かべるアルフレッド。 「・・・・・ただいまこの場においてダーク・ダガー隊を解散する。・・・・ま た迷惑ばかりかけるな。この後、お前はお前の好きなようにすればいい。帝国 に戻るもよし、もとの傭兵に戻るのもいい。・・・もし帝国に戻った時は、これ を上層部にでも渡してくれ。」 そう言うと首にかけていた認識番号をセイロンに手渡す。 「これが隊長として俺が言える最後の言葉だ。今までありがとう・・・・・。」 その言葉に眉をひそめるセイロン。 「・・・・・・了解。隊長は帝国にはもう戻らないの気なのか?」 「お前が質問するとは珍しい・・・・。そうだな。この傷のこともある。彼女 を送り届けたらそのままどこかでのんびりと暮らすさ・・・・。」 そう言うとふっと笑って見せるアルフレッド 「・・・・了解した。」 そう言うと敬礼をし、その場を去るセイロン。 そしてアタック・セイバーに起動させる。 「・・・!?」 何かの殺気に気づいたセイロンが構えようとした時、空から舞い降りる機体が 現われる。 不意をつかれたセイロンは、少したじろぎながらもハイブリットバルカンの照 準を謎のゾイドに合わせると即座に発砲する。 「な、何だ!?」 突然の事に驚きを隠せないアルフレッド。 「アルフレッド、こちらに・・・!!」 そう言うとミラルダは、アルフレッドの手を引いてサーベルシュミットへと向 かう。 その間にも謎のゾイドは、アタック・セイバーのハイブリットバルカンの弾を うけながら、お構いなしに距離を詰めてくる。 そして強靭な牙が、ハイブリットバルカンに喰らいつき、バルカンをねじ切る。 「これでてめえのお得意なバルカン殺法も使えないぜ!!」 当たり一帯に響き渡る声。
そして赤い機体が、月の光を浴びて無気味に光る。 「!?ロック。あいつか・・・・!!」 脇の痛みをこらえながらミラルダと走るアルフレッド。 バルカンを破壊して意気揚々のロックは、そのままセイバーをねじ伏せにかか る。 「・・・・・。」 その動きを見て身構えるセイロン。 大きく開かれた口がセイバーを襲う。 しかしすんでの所でかわし、逆に後ろ足でジェノサイドを蹴り上げる。 「・・!!こ、こいつ・・・。」 セイロンの機敏な動きに驚くロック。いったん間合いを取る。 「一体、何しにここまで来たんだ?ロック。」 そこにサーベルシュミットのマイクロフォンを使って話し掛けるアルフレッド。 「無論てめぇ葬るためさ・・・!!あれだけの恥をかかせてくれてのはてめぇ けだからな!!」 「この人は今、けがをしています!!戦うのは無理です!!」 会話に割って入るミラルダ。 「譲ちゃんもいたのかい。これはなおさらあんたの前でころさねえと。 せいぜい悲鳴でも上げてくれや。まぁアルフレッドのだんなが、死んだ後は心 配しなくとも俺が見てやるよ・・・・。」 不敵な笑みをこぼすロック。 その言葉にミラルダは畏怖する。 「その女と操縦を代われ!!たっぷりと地獄を見せてやるからよ!!」 「・・・・ミラルダ、代わってくれないか?」 シートの後ろから出ようとするアルフレッド。 「!?何をいっているんです!あなたは怪我をしているんですよ?ここは私が 必ずあなたを守ります。絶対に負けません・・・!」 その瞳に強固な決意が宿る。 「・・・・・・わかった。」 固い決意の表情が、アルフレッドをも引かせた。 「・・・・気にくわねぇ。が、こうなりゃ嬢ちゃんごと葬ってやるよ!!」 そう言うとサーベルシュミットへ向けて走り出す。 「仲良くあの世へ行きな!!」 サーベルも負けずとしてジェノサイドに向けて走り出す。 片翼の放熱フィンが光を放ち始める。 ズン・・・・ 「!!」 不意に起きた衝撃にジェノサイドが体勢を崩す。 ジェノサイドがサーベルに向かったのと同時にセイロンもまたジェノサイドに 向かって体当たりをしたのだ。 「セイロン!?」 そしてアタック・セイバーは、そのまま押し倒すとジェノサイドの頭部を前足 で押し付ける。 「て、てめぇ!!」 ロックの叫びと共に、ジェノサイドが押さえ込むアタック・セイバーを、力で 押し上げる。 「!?」 その動きを見て慌てて離れるセイロン。 軽くなったのと同時に離れたセイバーに向けてパルスレーザーを放つ。 一瞬の隙をつかれ、アタック・セイバーはまともに攻撃を受ける。 「とどめだ!!」 動きの取れないアタック・セイバーに向けてレーザの照準を合わせる。 「お前は注意力がなさ過ぎる・・・!!」 急にはいってきた無線に驚きあたりを見回すと、サーベルシュミットがすぐ目 の前まで来ていた。 「くそ!!」 慌てて退避行動をとるロック。しかし。 サーベルシュミットに気を取られている隙に、アタック・セイバーが足にその 鋭い牙を突き刺していた。 「貴様ら・・・俺をどこまでこけにしやがる気だ!!」 その叫びと同時にジェノサイドに衝撃が走る。 サーベルシュミットのヒートサーベルが、ジェノサイドの胴体を突き刺してい た。 「な、なにぃ!?うわっ・・・・!!」
悲鳴を上げるジェノサイド。そのまま倒れ込むと動かなくなる。 「これでこいつも終わりだ・・・・・。」 ジェノサイドを見ながらつぶやくアルフレッド。 「・・・・・隊長、それでは。」 「あ、ああ。・・・・・元気でな。」 ふいに入ってきた無線に答えるアルフレッド。 そしてアタック・セイバーは、何事もなかったようにその場を去る。 「行ってしまわれましたね。これからどう・・・・アルフレッド!?」 ミラルダが振り向いた先にはふさぎ込むアルフレッドの姿があった。 慌てて声をかけるミラルダ。しかし返事は返ってこない。 「町を・・・・町を探さないと・・・!」 一刻を争う事態に、焦りを感じながらも地図を見る。 そして一番近い町を見つけると、足早にその町を目指した。 町についたミラルダは、アルフレッドを抱えて必死に医者を探す。 数件を回って断られたが、1件の年老いた町医者が引き受けてくれた。 「これは・・・・・かなり危ない状態だな。肋骨(ろっこつ)が折れて、臓器 を圧迫しておる・・・。」 レントゲン写真を見ながら言う医者。 「た、助からないんですか!?」 「娘さん、心配なさるな。今すぐに手術をすれば何とかなるだろ。今すぐオペ の用意だ。」 近くにいた看護婦にそう命令すると椅子から立ち上がる。 「お願いします。助けてあげてください。私はもう・・・・・目の前で大切な 人がいなくなってしまうのは・・・・いやです・・・・・・。」 涙をこらえ言葉を詰まらせながら必死に訴えるミラルダ。 「さっきも言ったとおり大丈夫だ。大船に乗った気でいなさい。」 そう言うと手術室へと向かう。 手術は一晩中続いた。 その間、必死にアルフレッドの無事を祈るミラルダ。 (大丈夫、心配ないよお姉ちゃん・・・・。) その言葉にはっとしてあたりを見渡すミラルダ。 しかし誰もいない。 「フィリア・・・・・ありがとう。」 そう言うと目の前の手術室に目をやる。 すると手術室の扉が開く。 「!?先生!アルフレッドは・・・・。」 「だから言ったろう、大船に乗った気でいろと・・・。」 その言葉に安堵の表情を浮かべるミラルダ。 手術の終えたアルフレッドは病室へと移される。 ミラルダは、病室に移されてから彼の手を握り離れなかった。 3日後、ふとベッドの上にいる自分に気づいたアルフレッドは、胸の痛みを覚 えながらも起き上がる。 「病院・・・・・そうか私はあの後、気を失ったのか・・・・。」 状況を把握したアルフレッドは、あたりを見回す。 目の前には自分の上に伏せるように寝ている女性がいた。 よく知っている女性だ。 そして何かが手に絡まっている感覚があった。 よく見ると彼女の手がしっかりと自分の手を握っていた。 それを見て笑みをこぼす。外には明るく光る月が2つ。 その神々しい光がアルフレッドを照らす。何もかも消し去ってくれるような、 そんな気がした。 「あ、アルフレッド・・・・。」 目を覚ましたミラルダが、アルフレッドを見て驚く。 「また心配をかけてしまったな。」 笑顔を見せて言うアルフレッド。 「わたしはもう・・・大切なものを失いたくなかった・・・・ただそれだけで す。」 そう言うとうつむくと必死に涙をこらえている。アルフレッドにはそれが手に 取るように分かった。 「ありがとう。私は君のおかげで変われた気がする。」 「えっ・・・。」 唐突の言葉に驚き、顔を上げて戸惑うミラルダ。 「今までの私はただ任務をこなし、ただひたすら帝国のために生きてきた。ど んなにさげすまれようとも、周りにゼネバスの生き残りの力を見せてやりたか った。ただそれだけだった・・・・・。」 そう言うと遠い目で月を眺める。 「・・・・そうですか。それは・・・・とても悲しい事です。」 アルフレッドの言葉に何かを感じ、悲しみの表情を浮かべるミラルダ。 「ああ、そうだな。今、思えばむなしいだけの人生だ。しかし、この大陸へ来 て、いろんな人達との出会いが私を変えてくれた。失ったものも大きかったが 得たものも大きかったように思う・・・・・。」 「・・・・。」 「・・・・・今は君を守っていきたい、そう考えている。たとえそれが祖国を 裏切るような事になっても・・・・。」 その言葉にうれしさを隠せないミラルダ。しかしすぐに彼女の顔は曇る。 「でも私は・・・・人を不幸にしてしまう女です・・・。あなたに迷惑が・・・・。」 「そんな事、関係ないだろ。」 そう言うとミラルダの顔を見つめる。 ミラルダも頬を赤らめながらアルフレッドを見つめる。 そして二人は自然と唇を重ね合わせた。月の後光を受けて・・・。 死闘が繰り広げられた森林地帯に激しい雨が降っていた。 そこに横たわる1機のゾイド。それを作業用ゾイドがグスタフに乗せていた。 傘もささずにそれを見るパイロットが一人。腕や頭には包帯が巻かれている。 傷が痛むのであろう、包帯越しに腕の傷を抑えていた。 近くには、救難信号を受けて迎えに来た、ホエールキングが待機している。
グスタフへの積み込み作業が終わると、足早にホエールキングへと戻る。 それとは入れ違いに、一人の下士官がパイロットに近づく。 「二尉、積み込み作業を完了しました。敵の接近も確認しています。お早く・・・。」 下士官の言葉に、しばらくの間反応を示さなかったがうなずく。 「・・・・・・俺は・・・・・俺はまだあきらめない・・・・・・・。」 振り向きざまにパイロットは、そういい残してホエールキングに乗り込ん でいった。 ホエールキングは彼らを収容すると、機体を上昇させていく。 雲を突き抜けて高々度に出ると、北へと進路をとって行った。
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