エウロペ海戦
それはゆっくりと島へと近づいていた。 ただ無意識に流されている。そして次の瞬間、轟音と共に島の一部が崩落する。 その後、何事もなかったようにその巨体は、島により添うようにたたずんでいた。 数日後、ディーベルトの議会は今後の帝国、共和国との戦いに対する方針を協 議していた。 「・・・・・以下のように北エウロペ大陸での戦闘は、共和国の一方的な勝利 へと変わっています。しかし、西部はいまだ帝国の支配地域で、海があるとは いえ、いつ共和国との戦いの行き詰まりをこちらに向けるとも限りません。」 共和国はロブ基地での逆転を機に、一気に領土を西へと広げていた。 帝国の必死の軍部立て直し策も、ウルトラザウルスの登場によって水泡と帰し ていた。 「以前、フィルバンドルが攻められたような輸送船を使った攻撃もありますの で、特に北側領土に対する厳戒態勢は必要不可欠です。しかし・・・・。」 そこで、政務官の言葉が詰まる。 「・・・・我々にはまだウルトラのような切り札といえるゾイドを持ち合わせ ていない。」 議長であるリグアルド・ファルダが沈痛な面持ちで言葉をはく。 「現在、帝国の新型T−REXタイプの設計図をもとにしたゾイドを開発中です が、量産が行われるのには1、2年はかかります。小型ゾイド部門ではまもな くG・リーフの生産が開始されそうではありますが、並行しておこなっている パイロットの育成に時間がかかります。」 「育成する人材にも不自由しているわが国には由々しき問題だな。」 「・・・ならば、リグアルド議長のお悩みを一挙に解決する方法をお教えいた しましょう。」 そう言うと一人の青年議員が立ち上がる。 「ローレン・ギリアード!!挙手もなしに何を言うか!!」 「そうだ!!大体、過激派のお前の意見など聞かずともわかるわ!!」 年老いた議員からやじが飛ぶ。 「ま、言いたい事は分かりますが、まず私の話を聞いてからやじを飛ばしてい ただきましょう。」 そう言うと議会室中央にある演説台へ向かう。 「まず北の脅威に対する事ですが、先ほど政務官が述べたように現状分析とし て強力なゾイドは必要不可欠でしょう。そこで私はこの事を皆さんにお伝えし たい。」 ローレンがそう言うとモニターにエウロペ大陸に地図が表示される。 「先日、この島であるものが発見されました。」 「なにかね、それは。」 近くの議員があきれたように訪ねる。 「白いウルトラザウルスです。」 『なんだと!?』 『本当にいたのか?』 議会室がざわめく。 開戦当初に起きたフィルバンドル攻防戦で、壊滅寸前だったフィルバンドル守 備隊を救ったのが白いウルトラだった。 その強さはディーベルと国内では、話が神格化するほどの伝説となっていた。 「白いウルトラは現在、南エウロペのデルタロス海側に浮かぶミプロスに漂流 しているとの情報です。これを逃す手はありません。即刻確保するべきだと思 われますが。」 「ミプロス島とは・・・・あの島は北エウロペと南エウロペの中間に位置する カルジャン諸島にある小さな島だ。当然共和国のほうでも情報は得ているはず。 今、共和国と事構えるのはよくない。」 ローレンに問い掛けるように言うリグアルド議長。 「ではあれをみすみす共和国に渡し、我々は自滅を待てと。そうおっしゃりた いのですかな。そんな国を滅ぼすようなことは、断じて賛成できません。」 口調を強くして言うローレン。 「こちらのほうで、すでに軍部に話を持ちかけております。明日にでも捕獲作 戦は実行できます。」 「軍令部、そうなのか?」 「はっ、大丈夫です。われわれの海軍をご信頼ください。」 自身ありげに言う軍令部役員。 「分かった議決に入ろう・・・・。この作戦の了承するものはご起立願おう。」 そう議長が言うと大半の議員が立ち上がった。 「ローレン君、見てのとおりだ。君の好きなようにするがいい。」 「わかりました。」 そう言うと一礼をして議会室を出る。 この決議に眉をひそめるものが一人いた。 サラ・ミランである。 フィルバンドルでの攻防戦の生き残りである彼女は当然、この作戦には反対で あった。 特にあのウルトラには特別に思うところがあるだけに。 それから2日後、北エウロペ大陸にある共和国ランダー海軍基地に一つの通信 が入っていた。 「・・・・以上述べましたとおり、今回発見されたウルトラは、貴重な研究対 象としてなりうるものです。」 大きなモニターにはポニーテールの女性が映っている。シンシア・パミエルだ。 「学者さんたちのご意見もわかるけど、本当に動くのかい。そのウルトラ。」 モニターに向かって問い掛ける一人の女性。きれいな青い髪は短めで、左頬に 青い刺青がある。 「スフィー、だから調査するんじゃないの。」 「シンシー、あんたいっつもそういう仕事は、ジムに任せてたんじゃないのか い!?今日はどうしたんだ、あの馬鹿犬は?」 「その馬鹿犬は今病院よ。大馬鹿だからこの間怪我したのよ。」 「犬も歩けばなんとやらって奴ね・・・・分かったわ。仕方がないから今回は あたしらが受けてあげるよ。どっちにしてもあの馬鹿犬には海のゾイドは乗れ ないからな。」 そう言うと大きな声で笑い声を上げる。 シンシアとスフィーは、学生時代の同級生なのだ。 「作戦立案等はそちらにお任せいたします。今回は大統領からの承認も受けて いるので、空海関係なく支援を要請してください。」 「そりゃまた豪勢な・・・・。」 あきれたように言うスフィー。 「それではスフィルファード曹長殿、よろしくお願いします。後ミンリーにも よろしく。」 そう言うと笑顔で手を振る。 「はいはい、分かったよシンシア博士。」 その言葉と同時に通信が途絶え、モニターに砂嵐が流れる。 「・・・・・というわけで、今回調査することになったわけだけど、この基地 から援軍を出してくれない?」 スフィーは、通信の後、基地司令室に来ていた。 事務机に腰掛けて基地指令に話し掛ける。 「あまり無茶をいわんでくれ。お前たちマーライオン隊を除けば、ハンマーヘ ッドが7機、バリゲーターが9機しかないんだぞ。こんな弱小基地に支援を求めんでくれ。」 嘆く基地指令。 「私にしたら大艦隊だよ。」 「俺に言わせればヘッド以外は所詮沿岸警備用のフリゲートだぞ。」 「・・・・たく使えないね。あんたそれでもこの基地の大将かい!?・・・・・ 仕方ないなぁ、空軍のギルバートにでも頼むか。」 口元に指当てて考え込むスフィー。 「それはいい考えだ。そうしてくれ。」 その言葉に笑みをこぼす司令。 「ハーリー、あんた今、自分の戦隊を出さずに済むと思っただろ?」 「やっぱ出さないとだめか?」 そう言うと眉をひそめる。 「当たり前だ。今回はどう考えたってディーベルトと一戦交えそうなんだから。張り切って出してもらうよ。」 そう言うと椅子にしていた机から腰をおろし部屋を出て行く。 ランダー基地指令、ハーリー・ニクソンは、彼女の海軍士官学校の同期であった。 彼もいわゆる同期のサクラだ。 格納庫へと向かったスフィーは、ゆっくりと目の前にある改造ハンマーヘッド へと向かう。 「ミンリー!!シンシアから伝言だよ!!よろしくってさ!!」 「ふぇ・・・スフィー、大声出しすぎだよぉ〜。」 ふらふらしながら改造ハンマーヘッドのコクピットから現われたのは、めがね をかけたせみロングの黒髪の女性だ。左耳にはマイクロヘッドフォンをつけている。
「たく、あんたみたいなのがこいつの設計者だなんてほんと信じらんないよ。」 あきれ口調で言うスフィー。 「そんなこといわれても・・・・。」 「ま、それよりスピッドヘッドの調子はどうだい。」 「この間の初陣の時以来ずっと調子がいいよ。この子達、よっぽどウルトラを 護衛をしたことがうれしかったみたい。」 クスクスっと笑うミンリー。 彼女は、元ヘリック記念研究所出身で、シンシアとは研究所で知り合った。 入所して2年間勤めた後、かねてより希望の技術部へと転属し、スピッドヘッ ドの開発に携わったのだ。 その関係で、彼女も出向という形でこの基地へ来ていた。 「また近々、こいつらを使う時が来そうだから念入りに頼むよ。」 「まかしといてよ。」 ミンリーはそう言うとまたコクピット内へと姿と消す。 この時ディーベルトでは、ヒラリー盆地にあるラグーン、チェルマンの両都市 からウルトラ確保の部隊が派遣されていた。 すでにラグーン基地からの先遣隊は近くの島に到着しており、臨時基地の設営 作業に入っていた。 「ミゲル中尉、チェルマンからの部隊の到着は、明日になるとこの事です。」 「チェルマン隊到着までにラポータの格納庫だけでも完成させないと、この 海岸線がゾイドで埋まってしまうぞ。」 「はい、すでにその用に手配しています。」 彼らが見据える海岸線には、水上戦闘機ゾイドのラポータが20機、水上艦と してブラキオスタイプが18隻も並べられていた。 また補給艦に改造されたカノントータスも見える。
今回共和国との戦闘を想定して、誤認を防ぐために最も数の多いバリゲーター 部隊の派遣は見送られていた。 「明日はもっと大所帯になる。敵に見つからないようにしないとな・・・。」 そういうと迷彩塗装された建物へと向かう。 しかしその危惧は当たっていた。 その日にプテラスの偵察隊が島の上空を旋回していったのだ。 それから数時間後、スフィルファード曹長は自室の通信モニターに向かっていた。 「で、すでに敵さんに前線基地を築かれた後だってかい。」 沈痛な面持ちで高高度カメラで撮影された写真と報告書を見るスフィルファード。 彼女が手にしているものは、シンシアからの通信を受けた後に、友人である空 軍のギルバート中尉に偵察を依頼した報告書だった。 「残念ながらな。熱センサーには引っかからなかったが、基地の一部にゾイド を運び込むところを偶然撮影したものだ。」 モニター通信越しにギルバートが説明する。 「この分だとまだまだ数が増えそうだぞ。どうする気だスフィー。」 「どうするも何もうちらの戦力では空の援護がどうしても必要なのは分かって るだろ?」 「仕方ねえな、貸しにしておいてやるよ。今度会った時は俺と酒を付き合え。」 「その時の気分でね。」 「ち、相変わらずあいまいな答えだな。ま、いいさ、俺としてもルイーズ大統 領への株を上げておかんとな。じゃ、いずれ。」 そう言うとギルバートの姿がモニターから消える。 「たく、大統領ファンてのはあきれた奴だね。」 そう言うと通信モニターの設定を変える。 「ん?なんだ、ギルからいい返事はもらえたのか?」 皮肉のきいた台詞が画面に現われたハーリーの口から出る。 「いやみな奴だね。あんたその顔からだと知ってるんだろ?報告内容。」 「まあな。で、ギルは空からお前を守るって言っていたか?」 「今回は大統領のためだと。」 あきれたように言うスフィー。 「はは、まだ大統領にお熱かい。とにかく明日にでも島の東側にこちらも前衛 基地を作るしかないだろ。今晩にも先発隊を出させるようにしている。」 「ありがとさん。じゃ、こっちもできるだけ先発隊に間に合うよう行動するよ。」 そう言うと通信を切り部屋を出る。 急ぎ足で廊下を歩くと通信機で、隊の副隊長であるニクソン・ランバードに連 絡をつける。 「ニクソン、状況が変わった。今日にでも準備ができ次第、ここを出る。」 『分かりました。他の隊員をたたき起こします。』 「頼む。」 そう言うと通信機を切る。 その頃にはスフィーは、格納庫に到着していた。 「ミンリー!!いるんだろ!!でてきなよ!!」 声が格納庫一杯に響き渡る。 「ふぇ〜、だから大声出さないでよ〜。」 半泣き状態のミンリーが姿をあらわす。 「状況が変わった。今日にも出るよ。出撃準備にどのくらいかかる!?」 ミンリーの両肩を持って顔を近づけて問い掛ける。 「え、え、えと・・・・1時間もあれば・・・・・・。」 あまりの迫力にすこし顔を引きつらせながら言うミンリー。 「わかった。うちの隊の奴らにも手伝わせるからなるべく早くね。」 そう言うとあわただしく格納庫を出て行くのだった。
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