エウロペ海戦2
一機の白いゾイドが戦場を駆け抜けていく。 目の前にいた数機のレブラプターを背中のバルカンで打ち抜く。 「すばらしい性能だな。」 目の前で繰り広げられた戦闘を見て笑みをこぼしながら言う年若い男。 「わが国でもこれだけの性能の小型ゾイドが開発できるとは驚きだよ。」 男の脇に立っていたパイロットスーツの男が感嘆のため息を漏らす。 「君が以前乗っていたS・ディールと比べてどうだい?」 「パワー、機動性共に比較にならないほどの性能だ。S・ディールでは、所詮 一機のレブラプターと互角に渡り合うのが精一杯だったよ。一度大群に囲まれ た時は寿命が縮む思いをしたよ。」 苦笑しつつ、言うパイロット。 「これが大量に生産できれば、我々の計画も進みやすくなる。」 にっと笑みをこぼす。 「そういえば君が提案した作戦はどうなったんだ?」 パイロットスーツの男が尋ねる。 「順調に進んでいるよ。予定通り共和国と一戦交えそうだ。これで我が海軍力 の消耗を促すことができる。」 「後は我々が動き次第、少将らがこちらに入ってくる予定だ。」 基地内のモニターを見上げながら話す年若い男。 「少将?大佐ではなかったのか。」 不思議そうに尋ねるパイロット。 「先日少将に昇進されたそうだ。」 「なるほど、新たな風が吹くか・・・・。楽しみにしている。」 そう言うとパイロットスーツの男はその場を去っていく。 「吹かねばこの国に平和な未来などない・・・。」 男はそうつぶやくのだった。 ディーベルトの動きを知った共和国軍は、すぐさまマーライオン隊に出撃命令 を下した。 結局、急な事態に上層部が作戦指揮のために一人の男を送り込んだ。 アラード・ガフ大佐である。 彼は、共和国で旧大陸間戦争を経験した数少ない海軍士官であることを見込ま れて、送り込まれたのだった。 「マーライオン隊には、ウルトラのいる島より数十キロ東にあるアラマンド島 に陣地を築いてもらう事になった。」 「近すぎやしませんか?」 地図を見ながらハーリー・ニクソンは尋ねる。 距離的にある程度の兵器ならお互いとどいてしまう位置だからだ。 「こうなったら一戦交える覚悟で基地を築いて相手を威嚇するほかないだろ う。」 腕を組みながら言うアラード。 「本隊の方は、ニクシー攻略でゾイドが回せなくなっている。この基地の戦力 で相手するほかはない。スフィルファード曹長に期待するしかないだろうな。」 「空軍の助成を仰がないのですか?このような作戦の場合、空軍の協力を得て 制空権をとることが最適と思われます。」 「空軍なんぞに海での戦い方は分からんよ。こちらで保有しているプテラスと ストームで何とかなるさ。所詮、敵の戦闘機はプテラスかS・ディールのどちら かだろう。」 アラードは他軍の協力を仰ぎたがらない軍人だ。 大陸国家であるヘリック共和国での海軍は、空、陸軍より一つしたに見られて いる事が多い。 ガイロス帝国をはじめとする他の大陸国家への牽制のために軍備は進められて いるが、ほとんどお飾りといってよかった。 今次大戦が始まってようやくハンマーヘッドという強力な兵器をもつにいたっ たが、海上兵力ではやはりバリゲーターだけでは戦力不足だ。 ここで上層部にたいして見返してやりたいとの思いから他軍の協力を仰がない のだ。 そして彼のディーベルトへの認識不足から今回の作戦を窮地に追い込むことに なる。 アラマンド島周辺の海域には、先行してハンマーヘッドが3隻配備されていた。 ディーベルト軍がこの島に近づかないようにするためである。 そしてミプロス島には牽制のために、ハンマーヘッド2隻とバリゲーター4隻 が交代でディーベルトに対してにらみをきかしている。 ディーベルト側もブラキオスを中心とした艦隊が牽制のためにミプロス島周辺 に展開していた。 2日かけてようやく必要な設備が整ったところで、改造ゾイドスピットヘッド が進駐してきた。 「たくこっちで好きにさせてくれるって言ったくせに。シンシーの奴。」 愚痴をこぼしながらアラマンド島に設営された桟橋にせつげんする。 「へぇーよくまあこれだけの施設を2日でできたもんだ。」 スピッドヘッドを降りたスフィルファードは基地を見回して感想を述べる。 「スフィルファード曹長殿!!」 一人の下士官が自分の名を呼びながら走って来る。 「なにか?」 「この基地の設営、指令を担当しているクン・ヘルド中尉です。」 そう言うと一礼をする。 「ご苦労様です。」 スフィーもそれに答える。 「状況を報告します。クーゲル島にディーベルト軍が基地を構えています。昨 日もブラキオス14隻とプテラス型飛行ゾイド6機が合流した模様です。さらに 増強されるかもしれません。ミプロス島の変化はありません。」 「わかりました。こちらもプテラスボマーが7機、戦闘機タイプが5機到着予 定です。他の航空兵力は、戦況次第で送られてくるそうです。」 いつもと違い、丁寧な言葉づかいで報告する。スフィー。 「では小休憩をはさんで、敵軍の周辺を偵察してきます。」 そう言うとスピッドヘッドのほうへ向かう。 「さー次の仕事にかかるよ!!」 威勢のいいスフィルファードの声がこだまする。 一方ディーベルト側では、共和国の動きに焦りを感じていた。 「おいおい、2日であれだけの設備を作ったってのか。」 共和国軍の前線基地の写真を見て愕然とするミゲル。 「やはり工業力の違いって奴ですね。」 「ああ、確かにな。これは向こうの戦力が整うまでに仕掛けないとやばいかも 知れんな・・・・。」 「何を悲痛な顔をしているんだ。ミゲル中尉。」 そう言いながら小太りの男が入ってきた。 「フォード大佐。いや、共和国軍の動きのすばやさに驚いていただけですよ。」 「ほほう、さすがは共和国だな。動きがすばやいことだ・・・・・。明日の晩 にでも敵前線基地に艦砲射撃を加えて敵の基地を火の海にしてきてやるよ。」 軽い物言いでそういうフォード大佐。 「それでは大佐、こちらからもラポータを護衛につけます。」 「冗談はよしてくれ。ジェットエンジンを積んだ機体が同伴したのではすぐに 見つかってしまうではないか。今回は我々だけでやる。明日の未明にはチェル マンからの増援の部隊が到着するからな。ラグーン部隊は基地の防衛に専念し てもらうよ。はっはっは・・・。」 そう言うと高笑いを上げて部屋を出る。 「連携を考えないのかあの男は・・・。リブ、一応こちらも準備はしておけ。」 「はっ。」 敬礼するとすぐさま部屋を出て行った。 「さーて、これからこの海域を調査するよ。」 『了解、姐さん。』 各機から応答が帰ってくる。 スフィルファード達マーライオン隊は、夜が更け始めた頃にディーベルト軍が 基地を構えるクーゲル島の周辺を警戒していた。 「勝手にこんな警戒網引いていていいんですかね。」 「あんな上の命令なんていちいち聞いてられないからね。ま、ここで敵の増援 部隊の殲滅でもすればあのおっさんも大喜びだろ。」 『隊長!!レーダーに感ありです!!』 会話に割り込むように報告が入る。 「何機だい!?」 「水上に17隻、上空に11機です・・・あ、7機が上空を離れてもときた方 向へ戻っていきます。」 「よし、そいつらが離れきったところで攻撃する。まずは上空の敵を先に叩く よ。その後すぐに敵艦隊に対して魚雷を発射だ。いいね。」 『了解。』 時を狙って6機のスピッドヘッドが息を殺して獲物を狙う。 「プテラス隊は引き上げたか。まあ戦闘がはじまっていないんだ。あれだけの 護衛をつける必要もなかったじゃないか。」 艦隊随伴の補給艦型カノントータスの艦長が愚痴のようにこぼす。 彼はこの艦隊の提督だ。 補給艦型カノントータスには通常4人が乗艦できるためこちらで指揮していた。 またこの艦には、人を運ぶLST的な用も含まれていて、後部格納庫には20人 近い兵士が乗り込んでいた。 「艦長のおっしゃるとおりですが万が一のこともあります。共和国軍は、帝国 軍よりあなどりがたいといいます。」 「向こうだってこの大陸から帝国を追い出そうと躍起(やっき)になっていて こっちにあまり気を向けたくないだろうからな。」 その言葉をひるがえすかのように上空にいた4機のプテラスが爆音を上げて落 下していく。 「何!?共和国の連中か!?対空、対艦準備だ!!」 そして次に彼の目の前でブラキオス数隻が、魚雷を受けて喰らい水の中へと吸 い込まれていく。 「ここからだと引き上げた連中より島から援護を呼んだほうがいい!!直ちに クーゲル島に連絡しろ!!」 艦長の声がこだまする。 「よし!!後、数撃加えたらとっとととんずらするよ!!島から増援の戦闘機 がきたらしゃれにならないからね。」 魚雷を数回はなったマーライオン隊は、急速にその海域から離脱し始める。 その背後で、さらに火柱が数箇所から起きる。
『現在艦隊は、半数以上が被害を受けて壊滅状態。敵は東に逃走。被害のない 艦船の護衛を頼む。以上』 スクランブルのかかったラポータの飛行機隊に悲痛な報告が入ってきた。 目の前には赤々と燃え上がるブラキオスやカノントータスが見える。 「くそ、こっちが仕掛ける前に仕掛けられちまった。」 上空で、対潜警戒に当たっていたミゲルが愚痴をこぼす。 「ん!?なんだ?」 鳴り響く通信音で、通信回線を開く。 「リブ、どうした?」 『フォード大佐が敵を追いかけるために出撃しました。』 「ったく・・・・今ごろ艦隊が出ても餌食なるだけじゃないか。とめることは できなかったのか!?」 『は、はい、しかし我々の言葉をまったく聞かずに出て行ってしまわれました。』 「・・・・・・仕方ない何機かは大佐の護衛に回れ。これから俺も説得に回る。」 『了解。』 「余計な仕事を増やしやがって・・・・!!」 そう言うと機首をフォード隊のほうへ向ける。 「何だ、敵さんだいぶあわくっている様子じゃないか。こりゃいい、一気に基 地に戻るか。」 マーライオン隊はディーベルトの混乱を機に、一気に東に抜けてアラマンド島 へと戻った。 「大佐、艦隊を引いてください!!」 「何をいうか!今動かずいつ動くというのだ!?」 フォードの興奮する様子が手にとる様にわかる。 「艦隊の再編成のほかすぐにでも敵に反撃できる体勢を整えなければ、この後 全滅するのは確実です。」 「だからこそ出てきたのではないか!!」 「あなたは自分の勇み足で、艦隊を全滅させるきか!?」 温和に話をしていたミゲルが言葉を乱し始める。 「き、貴様わしに向かって反抗的な態度を・・・!!」 「今引き返さなければ大佐の機体をこの場で静めてもかまわんのですぞ!!」 「・・・・!!できるつもりか!?」 その言葉に反応して上空で旋回していた数機のラポータがフォードの乗るブラ キオスに照準を合わせる。 「!?・・・・・・・・分かった戻る。戻ればいいだろうが!!」 照準のロックをされたことに冷や汗を流すフォード。 そして投げやりな言葉をはき捨てて艦隊をクーゲル島へと向ける。 「このままで済むと思うなよ・・・・・。」 フォードの恨みがましい言葉がコクピット内に響いた。
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