エウロペ海戦3
2機のハンマーヘッドが遠巻きにミプロス島を監視していた。 昨晩の海戦は前線を驚かせたが、比較的平和を保っていた。 海戦から2日目の真夜中となっていた。 「なぁケレイディア、いつまでここでにらめっこしてなきゃならんのだろうな。」 今置かれている自分の立場に不服のようだ。 「ロッド軍曹、そんな事を私に尋ねられても困ります。そういうことは上層部 にでも言ってください。」 不満をぶちまけるロッドを突き放すように言う。 「お前、そういう口の利き方じゃあ貰い手がなくなるぜ?」 ちゃかす様に言うロッド。 「別にかまいません。性分ですから。」 ロッドの言葉を不快に思いながらさらに突き放すケレイディア。 「ったくお前さんとうやつは・・・・・おわっ!?」 爆音と振動でロッドの言葉がさえぎられる。 「軍曹殿どうされました!?」 ケレイディアが慌ててロッドの乗るハンマーヘッドのほうへ目をやる。 すると機体から煙と炎が噴出し今まさに沈まんとしていた。 「軍曹どの!!」
慌ててロッドのハンマーヘッドに接近するケレイディア。 すると時期にも衝撃と爆音が立て続けに響いた。 「なに!?」 レーダーには何も映っていはいなかった。 しかし自分のハンマーヘッドは確かに攻撃を受け、動けなくなっていた。 慌ててあたりを見回すと、暗闇の上空で何機もの飛行ゾイドが通り過ぎていく のが見える。 「ば、馬鹿なレーダーに映らない機体なんて・・・・!!」 『残念ながらそれは違うぞ。』 ふいに入ってきた通信に驚きあたりを見回す。 すると目の前に一機のゾイドが何か大きな板を抱えながら航行していた。 「あれは・・・・まさか電波吸収装置・・・・・。」 その物体に気づいたと同時に、彼女の乗る機体が大きな衝撃を受けて海底に没 していった。 2機のバリゲーターの炎を狼煙(のろし)代わりにディーベルト軍が一気にミ プロス島へと進撃していった。 そして一部の部隊は共和国軍陣地へと向かう。 「さっきの借りはちゃんと返させて貰うぜ。」 先頭をいくミゲルがつぶやいた。 一方アラマンド島の共和国軍は、マーライオン隊の勝利に酔いしれていたが、 ミプロス島監視部隊からの連絡が途絶えたことに、蜂の巣をつついたように混 乱していた。 「相手も叩かれた後に早速お出ましとは、こりゃ今日あたりくるつもりだった ね。」 レーダーには、ミプロス島に群がるようにたくさんの点が映る。 「ったく・・・・ミンリー!!また悪いけど、急いでメンテナスしてくれる??」 「うーん、なにかあったのぉ??」 ミンリーのとぼけた声と顔が画面に映る。 「うちの馬鹿ども使っていいから5分以内に出られるようにして。」 「うーん・・・・分かったよぉ。」 そう言うと通信モニターから離れるミンリー。 『みなさーん、申し分けないですが、この機体はすぐに出るそうなので、早く し上げちゃってくださいねぇ〜。』 語尾の長い声の後に“わっかりましたぁ〜。”と聞いたことのある声がいくつも 聞こえる。 「あいつらは・・・・・・。」 頭を抱えてあきれた物言いをするスフィルファード。 『えーっとあ、通信装置切り忘れてた♪』 そう言うと画面いっぱいいっぱいに顔を近づけてスイッチを切る。 「まったくあの子はのほほんとしすぎだよ。」 ミンリーの行動を見て両手を広げてやれやれといった顔をする。 ふと周りを見渡すと、通信モニターをぼんやり眺めている兵士が何人もいた。 「うぉほん、出れる機体はすぐにでもこの基地周辺を警戒!!敵を近づけない でよ。」 あからさまな咳払いをするとスフィルファードはそう言う。 その言葉にぼんやりしていた兵士たちが、体をびくっとさせて本来の仕事に戻る。 「ヘルド中尉、それでは。」 そう言うとクン・ヘルドに敬礼してその場を去る。 「ああ、分かりました。」 慌てて返事をするヘルド。どうやら彼もミンリーに見とれいていたようだ。 共和国軍が迎撃の準備をしている時、ラポータの第一波が基地を襲った。 前回の戦闘の仕返しとばかりに基地に対して爆弾をぶちまける。 基地のあちらこちらから火の手が上がる。 「ったく、動きが遅いんだよ。プテラス!?今ごろ・・・・。」 ようやく浮上したプテラスを見て苛立ちを隠せないスフィルファード。 スピッドヘッドの格納庫は洞穴にあるために被害は受けなかった。 「あんたたちさっさと出るよ!!」 『了解!!』 格納庫に入るなり叫ぶと反射的に部下たちが返事をする。 次々と出港していくスピッドヘッド。 すぐ頭上を数機のラポータが通り過ぎていった。 その後すぐに基地の方で爆発が起きる。 ふと見るとミプロス島を起点にブラキオス隊がこちらに向かって来るのが見える。 「これ以上はいいようにはさせない・・・!!」 機体をブラキオス隊のほうへと向けると魚雷を一斉発射する。 次々と水柱が起き、沈んでいくブラキオス。 それを援護するようにハンマーヘッドやバリゲーターが前へと出て行く。 海上での戦闘はほぼ互角に近かった。 しかし上空での戦闘は圧倒的なで、ディーベルトが優位だった。 ラポータの性能は、水上戦闘機とはいえプテラスでは到底かなうものではなか ったからだ。 さらに数でも圧倒的なさがあるため、夜が明ける頃には制空権は一気にディー ベルトのものとなっていたその時。 『待たせたな。スフィー。』 ふいに入った通信に驚くスフィルファード。 「ギルバート!?もっと早くきなよ・・・・!!」 『自分で戦端を開いておいて何言ってんだか。後1日は待てって言ったろうが。』 夜明けと共に北エウロペ大陸の方から無数の戦闘機が現われる。 「おいおい、何だあの数は!?」 バリゲーターをビーム砲で海底に沈めながら、北からやってくる脅威に対して 愚痴をこぼすミゲル。 「全機、艦隊を守りつつ敵の新手を攻撃せよ。」 そう言うと先頭に立って共和国の援軍部隊に向かう。 3機のストームソーダの奥に30機近いレイノスの姿が見える。 「おいおいおいおい、そんなもん引き連れてくるなよ。」 そう愚痴りながら部下を引き連れて編隊へ突っ込む。 共和国の援軍によって流れは徐々に共和国へと傾いていく。
この隙を突いて、4時間遅れで共和国上陸部隊がミプロス島へと上陸する。 すでにウルトラの周りはディーベルト軍が固めて移動のための作業をしていた。 「まったくコアの反応がありません。こんなのが一度でも動いたとうのは、と ても信じられませんね。」 ウルトラの分析結果を見ながら本国への報告をする技術者達。 「向こうでの戦闘もいつ劣勢になるか分かりません。こいつは爆破したほう が・・・・・・。」 一発の銃声が鳴り響く。その音と共にみなが音の方向へと視線をやる。 それと共に一斉にウルトラ中心とした銃撃戦が始まった。 「共和国軍艦隊などこの間のような不意打ちがなければ勝てない軍隊だ。さっ さと蹴散らしてしまえ!!」 いきり立つフォード。 随伴のプテラス隊を巧みに使って共和国艦隊に打撃を与えていく。 「マーライオン隊各員、浮上用意。ギルバート、援護頼むよ。」 その言葉を合図に6機のスピッドヘッドが、海面から離れていく。 「ハンマーヘッドが浮上したぞ!!プテラス隊!!」 マーライオン隊の動きを見てプテラスに迎撃に向かわせる。 しかしギルバートの乗るストームソーダが、牽制を仕掛けてきて近寄らせない。 「多連装ビーム用意。一気に艦隊を叩く。」 海面すれすれでディーベルト艦隊に近づくと、一気に上昇して艦隊の頭を取る。 「射撃開始。」 スピッドヘッドの腹部から一斉にビーム砲が放たれる。 海面にいたディーベルと艦隊は、光に包まれたかと思うと爆発を起こし沈んでいく。 「な、なんなんだぁ!?」 フォードの叫びがこだまする。被弾して動けないようだ。 そんな中、生き残ったブラキオスがマーライオン隊に攻撃を加える。 スフィルファード達は、巧みに攻撃をかわしていく。 悠々と上空を飛び、次の攻撃に移ろうとする。 しかし突然上空からビームの嵐を受ける。 「何!?」 3機のスピッドヘッドが被弾し海面に不時着する。 攻撃を受けて上空を見ると、数機のラポータがストームソーダの一瞬の隙を突 いて攻撃を仕掛けてきたのだ。 「落ちろ!!」 ラポータのパイロットの叫びがコクピット内にこだまする。 「な、なんて奴。」 驚きながらも必死に退避行動をとるスフィルファード達。 しかし、航空機としては足の遅いスピッドヘッドでは、かわすのがやっとだった。 「あれで俺を撒いたつもりか!?」 そう叫びながらギルバートのストームソーダが突っ込んできた。 そしてラポータと接触する寸前に旋回してブレードで切り裂く。 「やるな!!」 ストームソーダの動きを見てミゲルが、戦いを挑む。 一気に間合いを詰めてビーム砲を放つ。 しかし、それをいともあっさりとストームがかわす。 そして逆にギルバートのストームソーダが、ミゲルのラポータの背後に回り一 気に距離を詰める。 大きく展開したブレードが光り輝く。 「くっ!!」 今にも意識が飛びそうなぐらいの勢いで攻撃をかわす。 「なんて奴だ、あの間合いから避けやがるなんて。」 敵機の紙一重な回避の仕方に驚きを隠せない。 「くはっ、アブねー後もう少しで気を失うところだった・・・・。」 ミゲルは回避した時、一瞬ブラックアウトしかけたが、何とかその強靭な精神 で、持ちこたえていた。 2機の攻防は果てしなく続く。 そして戦いが共和国優勢のまま、決着がつこうというときにそれは起こった。 彼らの戦いに割って入るように対空ビームが、無数に放たれたのだ。 「いったい何だ!?」 ビームの放たれた方向には、ウルトラの存在があった。
「まさかあれが撃ったのか!?おい調査団応答しろ。」 慌ててミプロス島上陸部隊に連絡するミゲル。 『た、大変です、ウルトラが勝手に・・・・。』 通信はそこで途絶える。 それと同時に泣き声があたり一帯にこだまする。 それはついに目覚めたのだ。 ゆっくりと体を起こすと、海へと体をゆだねる。 両軍がウルトラに近づこうとするとウルトラは対空砲火を放ち、近寄らせない。 まるで両軍を拒否しているようだった。 「一体なんだってんだ。」 ウルトラの動きを見て愚痴るミゲル。 ウルトラはゆっくりとその身を南へと向ける。 「いかせんぞ!!」 ようやく機体が動きはじめ、ウルトラの後を追うフォード。 「やめろフォード大佐。あれは誰の手にも入らない!!」 しかしミゲルの叫びもむなしく、フォードは必死にウルトラについていこうと する。 するとウルトラは一発の魚雷を放つ。それはみるみるフォードのブラキオスに 吸い込まれていく。 一つの水柱を上げた後、爆発を起こしてフォードのブラキオスは、海の藻屑となった。 「・・・・・・全軍撤退準備。我々は作戦の目標を失った。繰り返す・・・・・。」 ミゲルがそう通信するとディーベルト軍は、いっせいにその場を引き上げていく。 「あちらさんも撤退かい。それじゃあこっちも撤退するしかないね。」 そう言うとスフィルファードは、味方パイロットの救助をしつつ基地へと引き 返していった。 今回の戦闘で大きく海軍力を失ったディーベルとは、今回の件以降、主に沿岸 部のみを警備するようになる。 ラグーンに引き返したミゲルは、戦闘報告をまとめてシビーリに送った。 「まったくもって今回の騒動は人騒がせなだけだったな。」 自室で戦闘報告を読んだ議長がそうつぶやく。 「いえ、これは我々の描く構想の第一歩です。」 不意にその場に姿を現したのは、ローレンだった。 「いつの間に・・・・・それに君の構えているものはなんだね。」 戸惑いながらも尋ねる議長。 「残念ながらあなたではこの国に真の平和をもたらすことができない。よって 消えてもらいます。」 「な、なんだと・・・・。」 その言葉の後に議長室に銃声がこだました。
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