策動3
キュィィィィィィン モーターのかん高い駆動音が鳴り響く。 「な、なんだこいつは!?」 目の前に突如として現れた正体不明の機体に戸惑う共和国兵士達。 一気に数体のゾイドを串刺しにする。 急な事態に慌てて救援を呼ぶ。 部隊を護衛していたゾイドは、最新鋭のスピノサパーとガンスナイパーだった が、あっという間に謎のゾイドの餌食となっていた。 数分後、基地がそれほど遠くなかったせいもあって全滅する前に救援部隊が到 着する。 3機のディバイソンだ。 「よし、敵の機体の判別は後続に任せる。とにかく我々は・・・・・・。」 彼の言葉が言い終わる前に機体に衝撃を受ける。 「な、なんだぁ!?た、たすけてくれー!!」 不意に起きた機体の振動を感じながら目に見えない恐怖に助けを呼ぶ。 そしてすぐに愛機はシステムフリーズとなって動かなくなった。 『隊長大丈夫ですか・・・・・・、カーランド、一撃を加えろ・・・・・・駄目です動きが早過ぎて・・・・ う、うわぁ!!この赤い機体は・・・。』 「い、一体何が起きてんだよ・・・・・・死にたくねーよ・・・・・・。」 通信機から外の様子が聞こえ、さらに彼の恐怖をあおり立てるのだった。 「まぁ実践テストとしてはこんなもんだろ。」 あたりに一体に広がる共和国ゾイドの残骸を見ながらそうつぶやくロック。 そしてゆっくりと機体を南に向ける。 そのようすを遠くから眺めるものがいた。 「あの後、逃げ去るように去って行ったわりにはすぐに見つかったわね。ほんと 分かりやすい男だわ。とりあえずあれより先にアルのいる場所を探さないと ね・・・・・・。」 そう自分に言い聞かせるように言うとその場から機体を動かす。 「そこのゾイド!!動くな!!動くと命はないと思え!!」 「な、何よ全く・・・・・・。」 うざったそうに言いつつ、いきなりどなり声に内心驚きを隠せない。 よく見てみると周りには共和国ゾイドが取り囲んでいた。 (あちゃーこれはやっちゃったかも・・・・。) コマンドウルフACを中心とした部隊だ。 何機か見なれない黒い機体も確認できる。 (あれは共和国の新型機??面白そうじゃない。数は・・・・全部で12機。何 とかなるわね。) 「残念だけど、あなたたちに付き合ってるひま、無いのよね。」 「な、なんだと!?貴様状況を把握していないのか!?そんなでかい口を叩ける 立場じゃないんだぞ!?」 「数で勝っているからって強気になるのは結構だけど、この戦力でうちを叩こう なんて、甘く見られてもね。」 そういうと背中のバスタークローが大きく開く。 「な、なんだこの機体は!?」 よく見ると見なれない機体に動揺を隠せない男。 「残党1機にひるむな、奴を押さえるんだ!!」 その言葉を合図に一斉に襲い掛かるコマンドウルフAC。 強化された火力を中心に攻撃を仕掛ける。 四方から来るビームを避けると一気に円陣の外に出る。 「追え!!逃がすな!!」 追いかけるAC達。 「全く・・・・・・。」 そう言うと機体を反転させ、ACのいる方向に機体を向けると一斉にビームを はなつ。 何機かに命中するが敵の火力は衰える気配はない。 「これでおわりにしてほしいわ。」 そう言いながら足のアンカーを下ろして発射態勢にはいる。 口内に装備された発射装置が光を集める。 次の瞬間、まばゆいばかりの光がAC部隊をすり抜ける。 射線上にいた機体は見るも無残な状態なり、その周りにいた機体も行動不能に 陥っていた。 「な、なんだあれは!?収束荷電粒子砲じゃなかったぞ!?広範囲にこれだけの 被害を与えるなんて・・・・・・。ジェノザウラーじゃないのか!?」 驚きを隠せずただその場にたたずむ隊長の男。 彼らが驚きを隠せない間に一気にフューラーが迫ってくる。 そして次々とACを血祭りに上げる。 そんな中、数機の黒い機体がフューラーに挑む。 「さっきの新型??さすがに避けてたのね・・・・・・。」 背中に装備されたバルカンがうなりを上げながら光を放つ。 それを紙一重で避ける。 爆音が聞こえなかったので、光が過ぎ去った方向を見ると、大きな岩があった が数箇所穴があいているだけだった。 「・・・・・・また新兵器なんか開発して・・・・・・。」 冷や汗を流しながら恨みがましく言う。
「このシャドーフォックスのレザーバルカンを食らって生き残れるものは相違 ないぞ!!」 フォックスのパイロットが自慢げに言う。 彼女の隙をついて正面に回り込んだ2機の黒い機体がレーザーバルカンを放つ。 今回は慌てずシールドをはって攻撃をかわす。 それを見て2機の黒い機体は、そのままレーザーバルカンを放ちながら向かっ てくる。 「格闘に持ちこむつもり?どれだけのものか楽しませてもらうわ。」 予想をはるかに越えるスピードで懐に入り込もうとする2機。 スピード、運動性能ともにコマンドウルフとは段違いである。 「さすがに新型だけあってウルフとは違うみたいだけど・・・・・。」 懐に入ったところで装備されたストライクレーザークローの一撃を加えようと する。 しかし、フューラーの運動性能はそれをさらに上回っており、懐に入ろうとし た1機は足蹴にされ、続く2機目の攻撃も難なく避けると、回転させて尾の一 撃を加えて機体を四散させる。 そしてとどめの一発を2機にお見舞いする。 そのようすを見てもう1機がフューラーに襲い掛かる。 背にかぶさるように乗るとレーザーバルカンの発射態勢にはいる。 「これだとシールドをはれんだろう!!」 「くっ・・・・・!!」 フォックスの機体を確認すると、フォックスを乗せたままスラスターを全開に して高速移動し始める。 「!?こしゃくな・・・・・!!」 そうはき捨てながらバルカンを放とうとする。 しかし、機体を右往左往させてフューラーからフォックスを振り落とす。 その場に転がるフォックス。 慌てて態勢を立て直すが、一瞬の隙をついてバスタークローがフォックスの機 体を捕まえる。 「これでジ・エンドよ。」 バスタークローのパワーを一気に上げると、機体を真っ二つに切り裂いた。 5分後、騒ぎを聞きつけてやってきた共和国部隊が見たものは、無残な姿をさ らすコマンドとフォックスのみがあった。 「9番機!!そんな動きでツェルベルクの力は出し切れんぞ!!」 訓練所に怒号が響く。 訓練所内に設置された模擬戦用の廃屋を盾にツェルベルク12機が、二手に分 かれて身を潜めている。 アルフレッドは、訓練指揮所からモニター越しに模擬戦の様子を見ていた。 シビーリに来て数週間で、彼のもとに12人のパイロットとともに量産型ツェ ルベルクが配備された。 その日以来、訓練の毎日である。
モニターに映し出される戦闘を見ていると、一人一人の未熟さに歯がゆさを憶 える。 そんなパイロットたちの戦い振りを見ていると、なんとも懐かしい気分にさせ られる。 (エドワード大佐もこんな気分で我々のことを見ていたんだろうな。) ふとそんな事が頭によぎると思わず苦笑する。 「市街地戦はただ身を隠すだけが脳じゃないぞ。それをどううまく利用するか だ。」 「よろしいですか?」 一人の候補生が挙手をするとその場に立つ。 「なんだ?」 「教官、このような戦闘での勝つためのマニュアルなどはあるのでしょうか?」 その言葉を聞いてふっと笑う。 「・・・・・・もともとこういうものはマニュアルなどない。大抵は撹乱戦法 を軸に一つ一つ叩いていくが、状況はその時その時によって刻々と変化してい くものだ。こういう戦いだけでなく全ての戦いにいえることだが、あくまで基 本的な戦法を軸に己の経験と知恵で切り抜けていく。だから今の段階では勝つ ことも負ける事も全てが経験だと思ってくれ。以上だ。」 「ふぅ・・・・・彼らをあと1、2ヶ月で使い物にするのはなかなか骨が折れ そうだな。」 訓練が終了して自室に戻ったアルフレッドがため息混じりに言う。 「訓練のほうはどうでしょうか?」 不意に聞こえた声に慌てる事もせず黙々と仕事をする。 「カレル、君はいつもながらノックがない男だな。」 「いえ、ちゃんとしましたよ。」 ノックをする振りをする。 「・・・・ドアをなでるように叩いても音はならんぞ。」 彼のドアを叩くしぐさを見てそう言う。 「おや?それは気づきませんでした。」 悪気もなく言うカレル。 「こっちの訓練は心配しなくていい。」 書類を片付けながら言う。 「そうですか。さっきの愚痴はうそなんですねぇ。」 「・・・・・で、そっちの戦況のほうはどうなっているんだ?」 そう言うと椅子を回転させてカレルの方を見る。 「それがですね、共和国のほうで何かへんな動きがあったんですよ。」 「変な動き?」 カレルの言葉に思わず問い直すアルフレッド。 「ディーベルトと国境を接している地域で、戦闘があったみたいなんですよ。」 「ディーベルト軍との小競り合いじゃないのか?」 カレルの言葉にさらに疑問を感じる。 「ええ、うちの方で戦闘のあった地域での行動は確認されていませんから。」 手に持ったパソコンを見ながら言うカレル。 「どうも帝国の部隊との戦闘らしんですよ。共和国は、部隊が全滅したのはう ちらのせいだと思っているみたいですけど。」 そう言ってため息を吐く。 「なるほど、それで私に判断を仰ぎにきたのか。」 そう言うと肘を突いて考え込む。 「帝国・・・・・残党か?いやしかし戦闘のあった地域は戦力集中させる時に 全部隊を引き上げたはず・・・・・・レジスタンスという可能性もないのか?。」 「それはないです。もともとこのあたりの地域には人が住んでいません。もし 何かあるとすれば南エウロペなど諸民族国家の監視のために、帝国が基地を建 設したぐらいです。今も同じ目的で共和国が使っていますけど。」 「・・・・・・この私を探すというのもいまさらおかしな話しな、どうにも判 断しかねる。もう少し具体的な情報がほしいな。」 「うーんこれ以上は我々でも無理ですね。」 「情報部なのにか?」 「もともと襲われた部隊の生き残りがほとんどいないんですよ。データをのせ たゾイドもただの鉄くずになってますからね。ただ、戦闘地域での残存粒子に かなり高濃度な荷電粒子が多く検地できたことと、生き残りの話だとT−RE X型のゾイドだったということしか。」 「T−REXタイプ・・・・あまりいい思いではないな。」 そう言うとカレルのパソコンのデータを見る。 (まさかあいつが・・・・・・俺の考えすぎか?でも奴なら・・・・・。) 「あのーアルフレッドさん??もしもーし・・・・・・。」 考えふけっているアルフレッド。 「!?・・・・・・すまん、で他に何かあるのか?」 「来月にまた新型ゾイドのテストパイロットをしてもらう事になったんですよ。 今回はあなたの今までの経験を見込んでお頼みします。」 「というとティガー系なのか?」 「はい。」 「それはまた楽しみが増えるな。」 そう言うと少し顔がほころぶ彼の姿があった。 彼らのいる数キロ先にある議事堂では、過激派による会合が行われていた。 会合はクルアルド・コーエンを中心に話が進められていた。 その顔ぶれは過激派の中心人物ばかりである。 その脇にはローレンの姿もある。 「本日提出予定のガナウロ法案と北エウロペ作戦について話したい。法案と作 戦の承認は強引にでも通す。作戦自体は、来年一月までに作戦を開始するつも りだ。その時にはローレン君、君のいっそうの協力をお願いしたい。」 「・・・・・・・・。」 クルアルドの言葉に終始無言ローレン。 「何かこの作戦に不満でもあるのか。ローレン。」 何も答えないローレンに不満そうな顔をして聞くクルアルド。 「・・・・・心配せずとも協力はいたしましょう。ただ・・・・。」 「ただ、なんだい?」 「君ら過激派の諸君は、本当にこの戦争に勝てると思っているのかと思いまて ね。」 唐突な彼の言葉にみな言葉を失う。 「・・・・・・はっはっはっは、何をいまさら言うんだ、当たり前に決まって いるだろう。」 何をいているのかという顔をして笑いを抑えることができないクルアルド。 「所詮は井の中の蛙か・・・・・・・・。」 ボソッと言うローレン。 「貴様、今何といった!?それは過激派の我々を侮辱する言葉だぞ!!」 その言葉を聞いて荒げる過激派議員達。 「我々過激派はそう思っているからこそ、強硬な態度をとっているんだ。やつ らはおたがいの戦争で手一杯だ。我々の事などへにも思っていない。だからこ そ、我々が勝てるチャンスではないのか??その為に軍備の増強も行ってきた。 一番の抵抗者である前議長も消したのだ。そうでなければただの道化師でしか ない。君もそう思っているのではないのか!?」 そう言って詰め寄るクルアルド。 「あえてそのことは言わないでおきましょう。」 「所詮は武器商人の代表でしかないか・・・・・・。君のような考えのものが 過激派の中心にいるのは実に不愉快だ。しかし・・・協力はしてもらうからな。」 そう言うと怒りに任せて部屋を出る。他の議員たちも不愉快なようすでその後 に続く。 「・・・・・・・心配しなくても協力は惜しまないつもりですよ。」 そう言うと一人笑みをこぼすローレン。 そこに議員達と入れ替わりに彼の秘書官が入ってくる。 「ローレン様、あのような事を直接言うのは危険ではありませんか?」 「なぁに、ちょっとしたデモンストレーションのようなものだ。ちょっと自分た ちの立場というものをわきまえてもらおうと思ってね。それに今度の作戦で誰 が必要か、彼らはわかっているはずだよ。」 この日、議会では北エウロペ大陸進攻作戦と議会に承認なしに大規模作戦が行 える法案の承認がなされた。 穏健派の激しい反対はあったが、過激派の数に圧倒されてしまった。 これにより議会は形骸化が進むこととなる。 それを傍観するようにローレンはただ見ていた。
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