策動4
キィィィィィィ・・・・・・ ジジジジジジジジ・・・・・・ 格納庫内で機械の作業音が響き渡る。 それを脇目で見る男が1人。 腕組みをして自分の前に置かれた1機の黒きライガーを見つめる。 背中に大きなブースターが取り付けられていた。 一見アタックブースターのようだが、脇にはビーム砲が取り付けられている。 彼はそれらの作業の様子を、物言わずにただじっと立っている。 しかし、彼は回りから異彩を放っていた。 周りの兵士とは違い紺色に染めた制服を着ており、腕にはダークダガーの文字 が縫い付けられていた。 「あいつだよ、准将が拾ってきたっていう傭兵は。」 「何で帝国の軍服なんだ?」 「何でも帝国から鞍替えしたらしいぜ・・・・・・。」 「傭兵は守る国がないからうらやましいよなまったく・・・。」 彼の姿を見つけた二人の兵士が陰口を叩く。 そのようすを見て二人のいる方向を見ると、二人はそそくさとその場を去る。 去って行くのを見届けるとすぐに目の前のライガーに眼をやる。 「よぉ!!元気にしってか?相変わらずおまえは無口過ぎるぜ、セイロン。」 いつのまに彼の脇に他っている男が親しげに話す。
「・・・・・・何か用かグラッツ大尉?」 「用が無ければ話しかけちゃあいけないのか?第一俺はおまえの上官だぞ?部 下とのスキンシップを図る。何か行けないか?」 楽しげに言うグラッツ。 「それにしてもおまえさんのライガーは特別せいでいいね。前にこいつの実験機 に乗った事があったが、あの時は一発で花畑が見えたらからな。すごいよおま えさんは。」 当時の事を思い出したのか、冷や汗が彼のひたいをつたる。 相当な目にあったようだ。 「とりあえず俺達は来月までに練度を上げて、いつでも作戦に移れるようにして おかなきゃならんが、おまえは協調性を持つようにしてくれ。この間の訓練み たいな事は勘弁だからな。」 そう言うとその場をあとにするグラッツ。 「・・・・・・軽い男だ。」 そう言うとさほど気にも止めない様子で自分の愛機を見るのだった。 翌日、シビーリ郊外にある訓練所に一機の新型ゾイドが搬入された。 グスタフの後ろにシートの被さったゾイド。 周りにはいつもより多い警備兵。いやおなしに緊張感が高まって行く。 シートの被さったゾイドを前にアルフレッドとミラルダ、カレルがいた。 最初のうちは訓練所にこなかったミラルダだが、いつの頃からかアルフレッド に付いて来るようになっていた。 「これがこの間いっていた例の奴ですよ。」 そう言うと随伴の作業員達にシートを外させるカレル。 『おお!!すげぇ!!』 『あれタイガー系のゾイドじゃないか。サーベルシュミットとはまた前々違っ た印象だよな。』 『でもなんでこいつ、装甲が無いんだ?』 『そんな事おれらが分かるかよ。』
その様子を人目見ようと集まった訓練パイロット達の歓声を呼び起こす。 「・・・・・・ツェルベルクもそうだったが、今回も驚かされてばかりだな。」 目の前に現れたゾイドにアルフレッドも興奮を押さえきれない。 「でもこれもツェルベルクもあくまで共和国、帝国ゾイドの模造品でしかない ですよ。」 「いや、ベースがそうだったとしてもそれをもとにこれだけのものを作るのは そうたやすい事ではないと思うが。」 改めてディーベルトの技術力に感心するアルフレッド。 「そういって頂けるうれしいですね。」 うれしそうに言うカレル。 「なんだかかわいい子ですね。」 「かわいい子か・・・・・・・たしかにな。」 ミラルダの言葉に苦笑するアルフレッド。 「で、いつから乗れるんだ?」 「そうですね、こいつに付ける装甲があさってまでに完成します。それとの最 終調整が必要なのであと1週間というところです。あくまで今日はお披露目で すから。」 そう言うと作業員にまたシートをかぶさせる。 「一応機密ゾイドですので、申し訳ないですね。あと生徒さんへの口止めのほ うもよろしくお願いしますね。」 「それと良くない事が・・・・・・例の赤と白のゾイド、こっちに向かってき ているそうです。早くて2、3日だそうです。気をつけたほうがよろしいかと。」 小声でミラルダに聞こえないように耳打ちするカレル。 「・・・・・・わかった忠告ありがとう。出きればこいつで遣り合いたかった がな。来週を楽しみにしているよ。」 その言葉を聞くとカレルは頭を下げてグスタフに乗りこむ。 「赤い奴は分かったが、もう1機は一体何なんだ・・・・・・?」 アルフレッドはT−REXの出現を聞いた際、自分に関係あるかどうか試すた めに、カレル達情報部を使って自分の情報を流させたのだ。 そしてその撒餌(まきえ)に誘われるように、赤い機体がシビーリへと向かっ てきたのだ。 そこで赤い機体は彼である事を認識した。 彼の機体と実力を考慮して、ディーベルト軍には近づかないようにカレルに進 言している。 しかし同じようにこちらへと向かう機体がもう1機いた。 クリスティのバーサークフューラーである。 この機体はアイゼンドラグーン専用機である為に、アルフレッドもしらない。 その上ほとんど機体を白日のもとにあらわす事がない為に、敵なのかどうか判 断に迷っていた。 「こいつも帝国のゾイドだろうが・・・・・・来れば謎も解けるだろう。」 「どうしたんですか?さっきカレルさんと何か話していたみたいですけど?」 難しげに考えふけるアルフレッドを見て心配そうに訪ねるミラルダ。 「いや、気にする事はない。たいした事じゃないさ。」 そういって安心させようとするアルフレッド。 「そうですか・・・・・・。」 安心したように笑顔を見せるミラルダだったが、しかしその瞳の奥に悲しみが 見える。 彼女自身、なんとなく気付いているのかもしれない。そう思うアルフレッド。 「さぁて、今日も鍛えてやるか。」 気分を切り替えるようにそう言うと訓練所内に戻るアルフレッドだった。 数日後、遠目でシビィーリ近郊にある訓練所を眺める1機のゾイドが現れる。 「やっと遭える・・・・・。」 そう言うと、機体を加速させて一気に訓練所へと向ける。 それと同時に訓練所のレーダーに謎のゾイドが映し出される。 けたたましくなる警報。 訓練所内は蜂の巣をつついたような状態だった。 『こちらガイロス帝国軍アイゼンドラグーン所属クリスティ大尉だ、帝国軍ア ルフレッド・イオハル中佐がそこにいるのはわかっている。いるのであれば、姿 を隠さず出てきてもらいたい・・・・・・話し合いに来たのだ。』 訓練所内の通信機に彼女の通信が入る。 「!?何でまたあいつが・・・・・・。警報を解除しろ、シビーリの防衛本部 には誤報だと伝えておけ。」 「りょ、了解しました。」 冷静に対処しつつも、予想していなかった事に困惑を隠せないアルフレッド。 「あの・・・・・・知っている方なんですか?」 脇にいたミラルダが不安そうに尋ねる。 「・・・・・・ああ、彼女とは幼馴染の仲だ。」 ミラルダの様子を見てそう一言告げる。 「そうなんですか・・・・・・。」 アルフレッドの言葉を聞いて何か思うことがあるのか目を伏せる。 「・・・・・これは私一人の問題だ、手出しはするな。」 そう言うとその場を後にして外へと出る。 「クリス、どうして君がこんなところまで来る必要があるんだ?」 バーサークと対峙するアルフレッド。 「・・・・・・うちは、ただあんたを連れ戻しにきただけさ。」 つぶやくような低い声で言うクリス。 「残念だが私は帝国に戻るつもりはない。・・・・・・諦めてくれ。」 「そうはいかないよ、あんたを連れ戻すか殺すかうちには2つの選択肢しかな いんだ!!うちにあんたを手にかけるような事させないでよ・・・・・・。」 気持ちが押さえきれないのか声が震えている。 「・・・・・・すまない、俺はここを離れるわけには行かない。」 「なんでうちの言う事を聞いてくれないの・・・・・!!」 やや感情が高ぶって荒げた声を出すクリス。 「アル・・・・・・!!」 そこに駈けこむ女性。 「ミラルダ、こっちに来るな危険だ!!」 こっちに向かってくるミラルダを見て、必死に制止するアルフレッド。 その様子を見て何かを感じ取るクリスティ。 (何?あの子??アル、なんでそんなに必死になるのさ?何で・・・・・。) 「・・・・・・そうか、あんたのせいでアルは・・・・・・!!」 そう叫ぶとバスタクローをミラルダに向ける。 それを呆然と見つめるミラルダ。 「くっ!!」 それを見てミラルダのもとへと走るアルフレッド。 寸前でミラルダを抱きかかえてその場から逃げると、バスタークローを回避する。 「何をするんだクリス!!」 思わずそう叫ぶアル。 「あんた、その子がいるから戻ってこないんだろ?だから・・・・・・。」 「そんな事をして俺が帝国に戻ると本当に思っているのか!?」 「・・・・・・。」 その言葉に何も言えないクなるクリス。 ピーピーピー!!! その時、急にコクピット内に響く警告音!! 「何!?荷電粒子砲!?」 警告音と共にこちらに近づいてくる光をモニターで見ながら、バスタークロー を展開する。 そして即座にEシールドを張って荷電粒子砲を防ぐ。 シールドの展開が少し遅かったのか、衝撃を受けた瞬間、機体に過度の衝撃と スパークが走る。 「・・・・・・くっ、あの馬鹿もう来たの??それにしてもこの荷電粒子は ・・・・・・!?」 ジェノサイドから放たれた荷電粒子砲とは思えない破壊力を感じとるクリステ ィ。 何とか荷電粒子砲を受け止めるクリスティのバーサークフューラー。 直後にコクピット内のあちらこちらからスパークが走る。 機体からも煙がもうもうと吹き上がる。 「クリス!!」 クリス機の状態を見て思わず叫ぶアルフレッド。 『・・・・くそ!!もう動かないよ・・・・・。』 動かなくなった愛機に苛立ちと自分への不甲斐なさを感じるクリスティ。 そこにホバーリングしながら、悠然と基地内に入ってくる赤いゾイドが現われ る。 「またあいつか・・・・・・。」 「クリスのネーチャン!!無様な格好だな!!あんたにゃそうやって地にはい つくばっている姿が一番あってるぜ!!ケケケ!!」 クリス機の状態を見て優越感に浸るロック。 「くっ!!」 ロックの言葉を聞いて頭に血がのぼりそうだったが、動かない自分の愛機を見 てその怒りを必死におさめる。 「アルフレッド!!ようやく会えたな!!あの戦闘から半年以上も経っちまっ たぜ・・・・。うん!?てめえの横にいるのはあの時の女かい。いつまでも仲 の良いこった。あんたにもいろいろ借りがあるからな、あんたの目の前でアル フレッドの無残な姿を見せてやるぜ・・・・!!」 「おまえも相変わらずだな・・・・・。」 「けっ!!それよりさっさとゾイドに乗りな!!俺はおまえとの決着をつける ためにこんな辺境まで来たんだぜ?」 「・・・・わかったよ。」 「アル・・・・・。」 「心配しなくていい。棟内に戻って俺の戦いを見守っていくれ。」 「はい。」 「それと・・・・・クリスの奴もいっしょに中に入れてやってくれないか?」 少し躊躇した後うなずく。 「すまない。」 そう言うと格納庫へと向かうアルフレッド。 『教官!!あんなタカビーな奴、我々で何とかしますよ!!』 そう言って現われたのは、3機のツェルベルクだ。 「やめろ!!いくらツェルベルクに乗っていても相手の実力を考えろ!!」 『隊長の手をわずわらしたくないんです。』 そう言って3機のツェルベルクはジェノサイドと対峙する。 「け、ひよっこがへんな奴に乗って出てきたぜ・・・・・・。」 そう言ってあきれるロック。 『何を!!』 ロックの言葉を聞いて1機のツェルベルクが突撃する。 大きな口を開いてジェノサイドに噛みつこうとする。 攻撃を受ける間際に横とびをして避ける。 そしてむなしく空を切る牙。 『なっ!?』 『いい機体だけどよぉ・・・所詮はひよっこってこった!!』 ツェルベルクの側面にはいるとバスタークローで、ツェルベルクの胴体を貫く。 『!!』
あっという間の出来事に2機のツェルベルクは動くことすらかなわないままそ の場で呆然とする。 「さぁ手、次はどっちだい?」 余裕の笑みを見せて言うロック。 『そこまでだロック。相変わらず弱いものいじめが好きなようだな。』 その言葉と同時に格納庫からアルフレッドの乗るツェルベルクが現われる。 「いちいちくだらねぇ事言ってねえで俺と勝負しやがれ!!」 「ああ、いつでもかまわんぞ。」 対峙する2機。 今二人の戦いが始まろうとしていた。 ZAC2001年4月、彼らの私闘とは関係無くディーベルト各地では慌しい 動きを見せていた。 先日決定された作戦に間に合わせる為に、ゾイドや武器、弾薬などの大量生産 が開始されていた。 国家総動員体制とも言うべき状態は、それから1ヶ月続く。 いよいよ運命の決戦は近づきつつあった。
後書き26 バトストMENUに戻る 前の話へ行く    次の話へ行く