策動5
「くっ・・・・・・いくらアルに気を取られていたからってあんな奴にバーサ ークをやられるなんて・・・・・・。その上こんな事に・・・・・・。」 クリスは動かなくなった愛機のコクピットの中で、自分の未熟さに苛立っていた。 さらにコクピットハッチが動かず、出るに出られない状態だった。 「とにかくここからでない事には・・・・・・。」 コンコン・・・・・・ 「!?」 頭を抱えて悩むクリスの耳に、装甲を叩く音が聞こえる。 「パイロットの方、大丈夫ですか?」 「・・・・・・。」 その声はさっきアルフレッドがかばった女性の声のようだった。 「生きていたら返事をして下さい・・・・・。」 「・・・・・・うちの事はほっといていいから、あんたはここを離れなさい!!」 彼女の声を聞くと、さっきアルフレッドがかばったシーンが繰り返し頭の中を よぎり、思わず声を荒げるクリス。 「生きていたんですね。良かった・・・・・・。」 クリスの声を聞いて安堵の声を漏らすミラルダ。 「このハッチ、開かないんですか?」 「・・・・・・だからうちの事はいいからあんたは逃げなさいよ!!」 さっきより怒鳴るように叫ぶクリス。 「・・・・・・そんな事は出来ません、あなたの事はアルから任されてます。 それに・・・・・・助けのいる人を置いていくなんて私、出来ません。」 そう言うとあたりを叩いてみたり棒でこじ開けようとするが開く事はなかった。 「・・・・・・ったく、こっちは機内の電気系統が全部やられてるから、外の 開閉スイッチで試してみて。こっちとは別系統のはずだから。」 飽きれたようにいいつつも笑みのこぼれるクリス。 「はい。」 そう返事すると外部からの開閉ボタンを見つけるけてスイッチを押す。 プシュゥ・・・・・・。 静かに開くハッチ。 開くと同時に二人の顔がまん前にあった。 二人とも機体越しにちょこんと顔を覗かせている。 はたから見ているとなんともかわいらしい。 「・・・・・・。」 「・・・・・・。」 「ぷっ・・・。」 「クス・・・。」 沈黙の後、思わず声をかみ殺しながら笑う二人。 「はじめましてミラルダです。」 「うちはクリスティ、クリスって呼んでいいわよ。とりあえずあの馬鹿を心配 させないようにここから離れましょうか。」 「そうですね。」 「・・・・・・あんただったら仕方ないかな。」 「えっ?」 「何でもないよ。ほらほらさっさと案内してちょうだい。」 「はい。」 そう言うと二人はその場から走って格納庫のほうへ向かう。 二人の去ったバーサークの少し向こうで対峙する2機の恐竜がいた。 ジェノサイドとツェルベルクだ。 ジェノサイドの背中にはブレイカーの装備するスラスターがあるが、その脇に 抱えられているのは盾で無く、バスタークローだ。 自在に動くの爪は、中型ゾイドならあっという間に真っ二つに出来る。 「あの背中の装備は前には無かったな。さっきのクリスの機体と同じものをつ けているという事は同等の性能をもっていると考えていいだろうな。」 ジェノサイドの機体分析をするアルフレッド。 「ケッ!!にらみ合いなんぞしてられっか!!」 痺れを切らしたロックがツェルベルクに襲い掛かる。 ホバーリングしながらバスタークローに装備されたビーム砲で、動きを封じに かかる。 とても人が乗っているとは思えない動きとスピードだ。 そしてそのままツェルベルクの横をすり抜けると、反転してまた同じようにビ ームを乱射しながら突撃を繰り返す。 「そんな一方的な戦い方で勝てると・・・・・・。」 「思ってねーよ!!」 今度はすり抜けざまにバスタークローを使って一撃を加える。 その瞬間ツェルベルクの右腕が吹き飛ぶ。 「ぐっ・・・・。」
コクピット内を襲う衝撃。 「もう1発食らわしてやるぜ!!」 そう言うとまた機体を反転させる。 「ふざけるな!!」 そう叫ぶと背中に装備され連装ビーム砲を横に大きく展開すとビームを放つ。 「!?そんなはったりがきくか!!!」 そう言うとビームをすり抜けながら、またツェルベルク攻撃しようとする。 「そう何度も同じ手はくわん。」 すれ違いざまに機体をしゃがませると、バスタークローの一撃をかわすと同時 に足げりを加える。 「なんだと!?」 思わぬ事に、まともにけりを食らって横に倒れるジェノサイド。 「ちっ!!」 舌打ちしながら倒れた機体を起こすロック。 そこにここぞとばかりにツェルベルクがビーム砲を雨のように放つ。 しかしすんでの所でそれらをかわすロック。 「半年たってあまり変わらないと思ったが、かなり腕が立つようになったよう だな。」 「その余裕をぶっこいた言葉も今のうちだぜ・・・・・・。」 不気味な笑みを見せるロック。 そして懐から眺めの筒を取り出すと自分の腕に当て丈夫にあるボタンを押す。 「くっ・・・・。」 痛みに顔をゆがめる。 「そうか、ならその隠れた実力を見せてもらいたいものだな。」 そう言うと一気にスピードを上げてジェノサイドの懐へ飛び込む。 「さっき、てめえのひよっこがやった手段じゃねぇか!!そんな戦い方が俺に 通用するとでも思ってるか!?」 余裕の笑みを見せながら叫ぶロック。 「やって見なければわからんだろう。」 落ち着いた表情で返すアルフレッド。 大きな口をあけてジェノサイドに襲い掛かる。 そして近づくツェルベルクを紙一重でかわすと、ツェルベルクの去った方向へ と機体を向ける。 「言われて噛み付きもしねえのか!?」 振り向きざまにそう言うと、そこに一点の光を帯びたツェルベルクが見える。 「!?まさか・・・・・・。」
「そのまさかだ。」 その言葉と同時に放たれる拡散荷電粒子砲。 「ちっ!!」 慌ててシールドをはって防ぐジェノサイド。 「けっこんなやわな荷電粒子砲で倒せるとでも思ってたのかい!?」 そういってツェルベルクのいるほうを見るがすでいない。 「どこだ!?」 「下だ。」 その声を聞いてましたを見るといつのまにかツェルベルクが懐に入っていた。 ツェルベルクの姿を見ると同時に思いっきりのけぞる。 数秒差で、さっきまでジェノサイドの頭部があった所をツェルベルクの鋭い牙 過ぎて行く。 しかし完全に避けきれず、右のバスタークローを食いちぎられる。 吹き飛ぶクロー。 「て、てめぇ!!」 叫びながら大きく体をねじらせて尾の一撃を見舞う。 「ぐっ・・・・・・!!」 一撃をまともに食らって吹き飛ぶツェルベルク。 続けざまに左のバスタークローがツェルベルクを襲う。 空中で姿勢を変えようと必死にもがくが対して変わらずに、背中のブースター に一撃を受ける。 「強制排除・・・・・・!!」 非常ボタンを押して背中のブースターパックを強制排除する。 これでツェルベルクは機動性と攻撃力をほぼ失う。 「ケケケケケ・・・・・・!!どうやら勝負は付いたようだぜ、アルフレッド のだんなよ!!心配しなくてもこれからたっぷりと痛めつけてあの世に送って やるさ。」 今の状況に浸るロック。 「・・・・・・あまりなれない機体だったとはいえ、とんだ失態だったな。」 「いちいち口答えしてるんじゃねえよ!!しねや!!」 叫び声を上げつつ、一気にと止めを刺しにかかる。 大きく開くバスタークロー。 動きの鈍くなったツェルベルクを難なく捕捉すると、胴体をはさんで投げ飛ばす。 投げると同時にあらゆる火器をツェルベルクに向けて放つ。 ズゥゥゥゥゥン・・・・・・ 大きく響く音が鳴る。 「これで俺の勝ちも同然だな!!いい気味だぜまったくよぁ!!」 「くっ、このままでは何もできずじまいだな・・・・・・。」 地面にはいつくばるツェルベルク。そうこうもあちらこちらボロボロになっている。 「俺はこの日をどんなに待ったことか・・・・・。こうやっててめぇをふんじばる日を・・・・!!」 「何か他に手はないものか・・・・。」 そう言って辺りを見回すと、転がったままのバスタークローを見つける。 「・・・・・・何とかなるかもしれんな。」 そういうと機体を何とか起こして再びジェノサイドと対峙する。 機体はさっきの攻撃によってボロボロで立っているのがやっとのように見える。 「どこからそんな力が出てくるのか不思議だぜ。あんたも相当の負けず嫌いだな。」 驚いて見せるロック。 「残念だが、おまえごときに負けるわけにはいかないんでね。」 「・・・・・・その減らず口今すぐに叩けなくしてやらぁ!!」 怒りに任せてとどめを差しにかかるロック。 その動きを見て脇に転がっていたバスタークローを口にくわえてジェノサイド に向ける。 それと同時に脚部のスラスターを使ってジェノサイドに突撃する。 「そんなものをくわえたぐらいでなんになる!!」 そう言うとバスタークローをツェルベルクに振り下ろす。 装甲を破かれながらも何とかかわすツェルベルク。 「何!?」 「これで最後にしてやるよ!!ロック!!」 そう言うとバスタークローをジェノサイドのコクピットに向ける。 向けられたクローを避ける事が出来ないジェノサイド。 「アルフレッド!!!てめぇは・・・・・・!!」 彼の言葉が言い終わる前にコクピットはひしゃげる。
バスタークローをジェノサイドの胸に突き刺したまま、その場を離れるツェル ベルク。 主を失ったジェノサイドは、その場にどっと倒れる。 「お疲れさん。」 そう愛機に言葉をかけると、コクピットハッチを開けてゆっくりと外へ出る。 その向こうには、目の前の広陵とした大地を赤く染める夕日が見えた。
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