告げるもの
闇夜にまぎれて飛ぶ無数の機影が見える。 それらは音も立てずに北を目指していた。 「・・・・・・ナイトビジョン作動・・・・・・動作確認異常なし。これより 降下作戦を開始する。オペレーションスタート。」 その言葉と同時にホエールカイザーなどから編成された輸送船段の腹の中から 無数のゾイドが吐き出される。
さらに後方のホエールクルーザー3機からは、合計18機のS・ディールが吐 き出され、落下傘部隊より先行して目指す基地へと飛び立っていた。 数分後には火柱が上がる。 落下傘部隊は、その火柱が上がる前に全機地上に降りたっていた。 白と黒を基調としたそのゾイドは、背中にビームガトリングやビーム砲を装備 している。ディーベルト最新鋭機のG・リーフだ。 「このまま敵基地を強行突破。基地の占領は後続に任せる。いいか、我々の目的 はあくまでこの電撃作戦を成功させるお膳立てを作るのだという事を忘れる な。」 『了解。』 各機からの返答が帰ってくる。 「よし、それでは行くぞ。」 隊長機の声に合わせて40機にものぼるG・リーフが、北を目指しはじめた。 ビシッ 室内に平手打ちの音が響く。 「あなた達、自分が何をしたか分かっているの!?」 それに続いて声が響き渡る。 サラの前には数人の穏健派の面々が顔をそろえている。 「・・・・・・。」 押し黙る面々。 「最近の過激派の目に余る行為に怒りを覚えるのは分かるけど、だからといっ て今回の作戦内容を共和国に漏らすなんて・・・・・・これはこの国にとって 重大な事よ!?」 「しかし・・・この作戦が失敗すれば国民からの不満が爆発して過激派の連中 は政権を握れなくなります。ですから・・・・・・。」 「たしかにそうだけどその結果、この国は共和国に負けると思わないの?この 作戦を利用して敵がこの国の中枢に攻撃を仕掛けるとも限らないでしょ う??」 「そ、それは・・・・・・。」 言葉が詰まる男。 「もっと先の事も考えて行動してよ!!」 彼等がした事が許せず苛立ちを隠せないサラ。 「まあ今ごろそんな事を言っても始まらないでしょう。」 会話に割って入ったのはローレンだった。 「!?過激派のあなたがどうしてここに??」 彼の突然の出現に戸惑いながらも問いかけるサラ。 「いや、お嬢さん怒鳴り声が聞こえたもので見に来たのですよ。」 「あなたのようにこの国の未来を考える事の出来る人間はもう僅かしいないで しょう。あなたが次の指導者なるのを期待してますよ。」 そう言うと部屋を出て行くローレン。 「一体奴は何をしに来たんだ・・・・・・。」 サラの周りにいる穏健派の男達が口々に言う。 「・・・・・・。」 サラはローレンの言葉に何か引っかかる思いがした。 「彼らが情報を流す以前に、我々が情報を流している事までは、思わないだろ うな。」 そう言うと苦笑しつつ議会場へと向かうローレン。 一方、ディーベルト連邦の大部隊による突然の奇襲に、共和国南部守備隊はな すすべも無く撃破されていった。 元々戦力の大半を暗黒大陸上陸作戦に向けている為に、たいした戦力が残って いなかったのも原因だ。 「ここも昔はもっといい所だったんだが、共和国や帝国の連中のおかげでこん なんになっちまった。」 1人のパイロットが基地を見て嘆く。 「そんな感傷に浸っているひまはないぞ。5分後に第23爆戦隊の爆撃が開始 される。その後は俺達の出番だ、気を引き締めて行け。」 隊長の檄が飛ぶ。 そして定刻どおりにまず先行のファルゲンがチャフを基地上空にばら撒き、そ の後に大型の爆弾を重たそうにぶら下げたファルゲンやプテラスが現れ、一気 に共和国基地を爆撃して行く。 基地のあちらこちらに煙が立ち昇り、サイレンがこだまする。 それを合図に基地の周りに隠れていたG・リーフが姿をあらわし、一気に基地 内へと進入して行った。 その手際の良さは、彼らが数ヶ月間耐えに耐えた猛特訓の成果と、北部地域一 帯に住んでいた地元兵の地の利を生かした戦法の賜物であった。 基地内に潜入すると、慌てて飛び出してくる共和国ゾイドをビームガトリング で蹴散らす。
唐突なジャミングと爆撃、そして敵ゾイドの進入に、配備されていた共和国ゾ イド達はその力を発揮することなく撃破されていく。 数時間後には、基地の制圧は完了していた。 これらの戦況は首都シビーリにある作戦本部に刻々と伝えられていく。 戦果が報告されるたびに、室内は喜びの声が上がる。 しかし、それらを気にしないかのように海をゆっくりと進む部隊があった。 「後46時間後にはニューヘリックシティに到着します。」 「向こうの戦況はどうだ?」 指令らしき男が通信士に尋ねる。 「はっ、一方的にディーベルトが押しているようです。南部一帯の基地がほと んど占領されています。また南西部の海岸からも部隊が上陸しているようで す。」 「ン?それは聞いていなかったな。しかし事が起きた後では、早々戻って来れ ないだろう。」 「アルジャルタ・ルエール少佐から通信です。モニターに出します。」 そう言うと手際翌操作してメインモニターに表示する。 「そろそろ本隊より離れます。」 「おう、しっかり押さえててくれよ。後、タイミングだけは間違えるなよな。」 「どう考えたってこちらのほうが早く着くんですから、間違え様がありません て。それで行ってきます。」 そう言うと敬礼をし、通信を切る。 画面には音信終了と表示される。 このディーベルト軍の作戦に合わせた彼らの作戦は、極秘裏に、そして細心の 注意をもって行われていた。 一方、シビィーリ郊外にある訓練所のある一室。 ベットの上に座ってただ一点を見る女性がいた。 クリスティである。 あの戦いの後、アルフレッドの配慮もあって捕虜施設に送られずにいた。 さらに独房ではなく、普通の一室だ。 これも彼の配慮だろう。 とはいえ彼女の部屋の前には衛兵が立ち、室内にも監視カメラが置かれている。 「一体うちはこんな所まで何しに来たんだか。もう踏んだりけったりだわ。」 ため息をつくと、ここであった事を思い浮かべながらそう言う。 少し前の出来事を考えてふさぎこむ。その繰り返しだ。 するとドアのほうから話し声が聞こえる。 即座に体を起こして聞き耳を立てる。 「・・・・・・さん、気軽に来られるのはいいですが、一応捕虜ですから・・・・・・。」 誰かが来たようだ。衛兵と話しをしている。 「・・・・・・そう言ってもアルフレッドのお客様です。心配は要りません。」 聞き憶えのある声だった。 ガチャ ドアの開く音がすると見知った顔が見えた。 「果物とかをもって来たんですが、いかがですか?」 そこには満面の笑みを見せて立つミラルダの姿があった。 「・・・・・・ありがとう。ありがたくもらうわ。」 そう言うとベットから腰を上げ、果物を入れたざるを受け取る。 「・・・・・・。」 「・・・・・・どうしたんだい??」 「いえ、あの・・・・・・少しお話いいですか?」 少しおどおどした態度をとりながら話すミラルダ。 クリスから見れば、勇気を振り絞って話しかけたといった感じがした。 「かまわないよ。で、どういう用件なんだい?」 ふっと笑うような笑みを見せて言うクリス。 「ごめんなさい。」 その言葉と同時に頭を下げる。 その言葉と行動に、戸惑いを隠せないクリス。 「その・・・私のせいで、あの火とが帝国を裏切るような事になってしまって、 そのうえその事が原因であなたにまでこんな事に・・・・・・。」 頭を下げたまま話すミラルダ。 彼女の心境としては下げずに入られないのだろう。 「・・・・・・はぁ、全くアルもそうだけど、あんたもほんと一途だね。」 「えっ!?」 その言葉を聞いて思わず頭を上げるミラルダ。目には涙が浮かんでいる。 「まぁたしかにどういう成り行きがあったにせよアルが帝国を裏切ったのも、 うちがアルを追いかけてこんな辺境で捕虜になった事も全部あんたには関係な いだろう。それぞれが自分で判断した結果なんだから。なんでも自分のせいだ と思うのはよしな。」 「で、でも・・・・・・。」 「そういう風なの、うちは嫌いだよ。あんた達、両思いなんでしょ。もっと堂々 としたらいいじゃない。でないと周りが迷惑するだけなのよ。」 ぐっと自分の中の感情を押さえながら言うクリス。 「それだとクリスティさんの気持ちが・・・・。」 「だ・か・ら、周りは気にするなって言ってるでしょ!!」 そう叫んだかと思うと、クリスはミラルダのほっぺたをつねったうえに伸ばす。 せっかく押さえている感情をほじくり返された事がよほど頭にきたのか青筋が 見える。 「ひ、ひたいでふぅ〜。」 ほっぺをつねられて涙が浮かぶミラルダ。言葉も変だ。 「あんたがうじうじしてるからよ。またそういう事言ったらもっとも口さけ女 みたいにしてあげるから。いい??」 「ふぁい。」 ほっぺを延ばされたままのため返事もやはり変だ。 「分かればよろし。」 そう言うとほっぺたから手を離す。 同時にミラルダがほっぺたを両手で押さえる。 「・・・・ほんと憎めない子だね、この子は・・・・。」 小声でそう言うとふっと笑顔を見せる。 つられるように笑みをもらすミラルダ。 「入るぞ。」 そこにノックの音とともにアルフレッドが部屋に入ってきた。 「クリス、おまえの処遇だが・・・・何かあったのか二人とも??」 部屋の不思議な雰囲気と二人が笑みを見せている事に不思議に思うアルフレッド。 「なんでもないよ。」 「なんでもないですよ。」 二人の声がハウリングする。 「??」 アルフレッドにとっては、分からない事だらけだったが、二人の仲がよさそう なのを見て安心した。 「で、うちはこの後どうすればいいんだい??」 「捕虜として扱う話しもあったが、今は帝国より共和国との戦争で忙しいらし くてな。国外退去、もしくは我々と行動するかのどちらかだ。」 「そりゃまた寛大な処置だね。」 飽きれるように言うクリス。 「たしかにな。で、どうする気だ?」 「うーんそうだね・・・・今更あんたのいない帝国に戻っても面白くないし、 そこにほっとけない子が約1名出来ちゃったしなぁ。」 そう言うとミラルダの方をじっと見る。 「わたしですか!?」 見つめられておどおどする。 「そう、そのおどおどした態度絶対直してあ・げ・る。」 「お、お手柔らかにお願いしますね・・・・。」 少したじろぎながら言うミラルダ。 「そうびびらない、びびらない。」 そう言うと満面の笑みを見せるクリス。 「・・・・またこいつのおせっかいが始まったか。」 クリスの行動を見て、ため息をしながら言うアルフレッドだった。
後書き28 バトストMENUに戻る 前の話へ行く    次の話へ行く