告げるもの2
町は平穏を保っていた。 市場では威勢のいい声と人ごみが絶えない。 「今日はパパオが安いよ!!奥さんどうだい・・・・いい!?」 威勢のいい若い男が掛け声を止めて一点を凝視する。 あちらこちらで飛び交っていた声もいつの間にかなくなっていた。 静まった市場にいる人々は皆、同じ方向を見る。 彼らの見つめる先には強大な船が悠々と飛んでいた。 それらは町の外の平地に降り立つ。 集まる人々。 しばらくして、艦内から数機のガンスナイパーが姿をあらわすと、あたりを警戒する。 遅れて一台のジープが中から姿をあらわす。 ジープの助手席には1人の男が座っていた。 艦を取り囲むように集まる群集の中から1人の男が数人の警備兵を連れて前に出る。 それを見てジープを降りる男。 「ニューヘリックシティへようこそ、コクン准将。今日は何用でしょうか。」 ジープから降り立つ男に対して丁寧な挨拶をする男。 「これから北へ向かう。その為の補給と情報を頂きたい。」 「・・・・ディーベルトを攻めるのですか。我々としては、これ以上の戦乱は望み ませんが、共和国の意向では仕方ありませんな・・・。」 そう言うと男は部下を呼び、指示を与える。 一方、この南エウロペへの共和国軍進駐を全く予期していないディーベルト作戦本 部では、北部一帯で行われている作戦に気を取られていた。 定期的な偵察もおろそかにされつつあり、作戦が順調に進んでいる事も要因の一つ だった。 ちょうどその頃、3機のネオタートルシップが、北エウロペと西エウロペをつなぐ 半島南部に差し掛かろうとしていた。 後部ハッチを開き、そこから十数機にもわたるレイノスが放出される。 それに続いて、20機を超えるプテラスボマーが現れる。 「作戦を開始する。」 指揮官であるアルジャルタ・ルエールの一声で、一部のレイノスを除いてプテラス とレイノスは、おのおの目的を果たしにその場を離れる。 この事態を全く予期していなかったディーベルト軍は、彼らの進入を許してしまい、 各北エウロペに進行中の部隊へ送る、補給物資中継基地を簡単に爆撃されてしまう。 補給基地では、蜂の巣をつついたようにゾイドや兵士達が、地上を右往左往している。 慌てて近くの飛行場から飛び上がるファルゲン。 しかし、制空権は完全に共和国側に取られてしまっている為に、浮上する前に撃破 されて行く。
それでも機銃をすり抜けて上空に何機か上がるが、レイノスとのドックファイトが 待っていて、プテラスを牽制する所ではなかった。 「レーダー基地は何をやっていたんだ!?」 司令官の怒号が飛ぶ。 「いまいち感度が悪く、発見できなかったのことです。」 「闇商人から安く仕入れてくるからこんなことになるんだ。ゲーターとレーダー基 地とをリンクさせて周囲の警戒に当たらせろ!!いいな!!」 そしてその共和国の先制攻撃に、全くもって役に立たなかったレーダー基地から、 新たに大型輸送機が接近の報告が各守備隊に入る。 それを聞いて司令官は、本部に対して救援要請を打電した。 ネオタートルシップ格納庫内では、次の作戦の為に慌しく準備をしていた。 射出機に固定されているのは新型のライガーゼロだ。 『オーライ、オーライ、良し。射出準備完了、ラーマ大尉、いつでも行けます。』 「おう、ご苦労。」 整備兵から射出準備完了の通信が入ると気前良く返答する。 『おいラーマ、今日はうるさい准将がいないからって勝手な事ばかりすんなよ。』 モニターに映る男が、ラーマに向けて挑発するように言う。 「何を言う。俺はちゃんと作戦どおりに動く男だ。勝手にやるのはいつもおまえの ほうだろう。せっかく一部隊の指揮官になったんだからそう言う事はやめろよ。」 そういいながら機体の調整をする。 『ち、逆に説教されるとは思わなかったぞ。とりあず無事で帰って来いよ。』 そう言うと苦笑いした顔が消える。 「今更なにを言ってんだか。それじゃあ行ってくる。」 「おうさ。」 そう言うと通信が切れる。 「二人とも先に行ってるぞ。後からついてこい。」 『了解。』 「ゼロイェーガー一番機、出る。」 返答が帰ってくるのを確認すると、ラーマは機体を滑走させる。 機体が船体から離れると同時に自由落下していく。
少し間をおいて、2機のライガーが降りていった。 「着地成功。いつでも行けますぜ。」 陽気な声が聞こえてくる。 「今回の我々の任務は、強行偵察だ。その為のライガーゼロ・イェーガーだという 事を忘れるなよ。」 「了解です。」 ヤコーニのテンションの低い答えが返ってくる。 「では行くぞ。」 ラーマの一声で、3機のイェーガーが、ディーベルトの基地を目指して走る。 完全に空からの攻撃に、目がいっているディーベルト軍の隙をついて、無事着陸に 成功したネオタートルシップは、次々と自分の体からゾイドを吐き出していく。 上空では、レイノスやストームソーダが警戒をしている。 ガンスナイパー、ディバイソンを中心とした主力部隊だ。 中にはベアファイターなどの最近戦線に投入されたゾイドなども見える。 それに続いて完全武装した兵士達が駆け足で降りて行く。 進撃の為の準備を整えていると、警戒警報が鳴り響く。 「敵ゾイド部隊接近中、各部隊は迎撃準備。繰り返す、敵ゾイド・・・・。」 警報が鳴り止む頃には、ディーベルトの第1陣のファルゲンが、レイノスとの戦闘 を開始する。 遅れてG・リーフやアイアンコングなどの混成部隊が攻撃をしかけてくる。 負けじとゴジュラスガナーやカノントータス、そしてディバイソンが、キャノン砲 をディーベルト軍に向けて放つ。
共和国の火力はすさまじく、接近戦になる前にディーベルト軍は撤退を余儀なくされた。 そして共和国軍は体制を整えると、進撃を開始しする。 この戦闘で北エウロペと西エウロペをつなぐ半島南部を、共和国軍が短時間で完 全制圧する。 この出来事により、北と南からの挟み撃ちにあうと判断した作戦本部は、進行中の 各部隊に対して急遽作戦を変更、占領下においた共和国軍基地に一部部隊を守備隊 として置き、主力部隊は南部に滞在する共和国軍部隊の撃滅に、向かわせざるおえ なくなった。 また西南部から進行中だった部隊の主力部隊の一部は、一旦西エウロペ大陸に渡り、 東進した後、共和国の背後をつく事が決定。 しかし、遠回りするルートをとる為に、挟撃するまでに丸1日以上かかるため、 それまでに東軍主力部隊が撃退される恐れもあり、西南部の主力部隊は、最短ルー トである陸上ルートで東部部隊と合流する事となった。 戦線の拡大と縮小しながら集結し始めるディーベルトの各部隊。 慌てふためく兵士達の顔には、焦りと焦燥感が見える。 だが、彼らのそんな行動をあざ笑うかのように、バルハナ基地のアルバン率いるア ルバン隊が、主力部隊がいなくなったディーベルト占領下の基地を次々に襲いかか った。 それに習うかのように、他の基地に駐留する共和国部隊が、退却中だった共和国基 地守備隊を取り込みながらディーベルト軍を襲う。 確保していた制空権をあっという間に取られ、地上での歴然とした戦力差に、奪い 返される基地。 さらに半島の海岸部も、海軍の協力により封鎖済みで、半島に残った部隊に逃げ道 は残っていなかった。 東部部隊と合流を急いでいた西南部主力部隊は、合流を諦めて現在占領下に置いた 共和国基地の守備固めへとはいる。 これらの悲痛な報告を聞き、息消沈する作戦本部。 そこに、彼らを追い討ちにかけるような情報が入る。 南エウロペから共和国部隊が首都シビーリに接近中との報告だった。 たまたま南エウロペ大陸との貿易船の護衛をしていた部隊が、レーダーに映る巨大 な機体を発見したのだ。 発見した部隊は報告のあった数分後、音信不通とうなっている。 このような重大な事が数時間の間に集中して起こり、情報の収集がつかなくなった 作戦本部は、完全に機能を失った。 作戦本部からの的確な情報と作戦司令がなくなったために、前線では混乱をまねき、 さらに進撃をして全滅するものや占領地から逃げ出すものが出てきた。 事態の収拾をつけるために司令部が出した判断は、“全部隊撤退の上、すぐさまシビ ーリの守備につけ“だった。 実質、北部侵攻していた各部隊は撤退するのが精一杯で、この巨大な大陸を大型輸 送船で横断するだけでも3,4日はかかる。 シビーリに接近する部隊は、あと数時間後には到着するのだ。到底、間に合うはず もない。 当てにしなければならない周辺守備隊のほとんどは、北部作戦の為に部隊を引き抜 かれていて、骨抜き状態で役に立ちそうにもなかった。 現在、最高責任者であるクルアルド・コーエンは、頭を抱え込むばかりだった。 「何か手はないのか!?」 焦燥感のつのった顔で、まわりの議員に意見を求める。 まわりにいるのは過激派の最高幹部達だ。 「ここまで八方ふさがりでは、手のうち用もないだろう。」 初老の議員がため息交じりで言う。 「おとなしく降伏するしかないだろう。」 「それは駄目だ!!一国家がそう簡単に降伏しては国民に示しがつかん!!」 「今はそういった面子にこだわっている時ではないと思うが・・・・・・。」 「どのみち彼らが入城すれば、主戦派である我々の命はない。だったら負ける事を 覚悟で防衛線を張って、その間に我々だけでも撤退を・・・・。」 「それではこの町を見捨てる事になる。私は反対だ!!」 「それこそ下らん面子だ。とにかく一刻も早く体制を立てなおす必要がある。 ここは穏健派の連中を上手く抱きこんで、ここをいち早く脱出する事だ。我々が生 き残らねば誰がこの国を動かすんだ。」 「しかし、今すぐに離れるのはまずいだろう。戦闘が始まったと同時に離れるのが 得策と考える。」 「そうなると、人柱が必要となる。我々に、そんな役の出来る捨て駒がはたして残 っているものか・・・・・・。」 諦め口調で言う一人の議員。 すでに彼らの頭にあるのは自分達の身の安全だけだった。 「そう言えば町の外にある訓練部隊の教官は、たしか元ガイロス帝国の士官だった 男だ。かなり優秀な男と聞く。奴にやらせてはどうだろうか??」 そう1人の議員がつぶやく。 「待てガイロスの奴に教官などさせているのか!?」 いきりたつ若い議員。 「半年前にピーリングの娘が連れてきた男だ。このご時勢に駆け落ちとはなんとも はや・・・・。」 そう言うと不敵な笑みをこぼす。 「ピーリングの娘だと!?あれは一時、大問題を引き起こした危険人物であろ う!?そんな奴が連れてきた士官を簡単に信用して、大事な部隊の訓練を任せてい るのか!?」 老議員の怒号が室内に響く。 「彼はかなり優秀な士官だ。訓練所での成果はよく耳にする。ここに来てガイロス だから信用できんなんぞ言ってられん。すぐにでも召還すべきだろう。」 「・・・・・・・・しかたがいない。すぐにでも召還させろ。」 早くしろとばかりに指示するクルアルド。 30分も経たないうちにアルフレッドは呼び出された。 「・・・・・・・・と、言うわけでな、我々としても対応に苦慮しておる。」 1人の老議員がアルフレッドに状況を説明する。 ただし、北の作戦の戦況は伏せられていた。 「・・・・・・・で、私になにをしろと?私が聞く限り、首都を守りきるのはかな り難しいと思いますが。」 「だからこそ、君の力を借りたいわけだよ。我々は一人でも優秀な戦力がほしいの だ。特に君のような実戦経験の豊富な者がね。」 アルフレッドを見据えながら言う議員。 「・・・・ただ先頭に立って、戦ってくれればそれでいい。」 議長のクルアルドは慎重に述べる。 「・・・・・・分かりました、お引き受け致します。ただ、私は前線で戦うことし か知らない男です。自分の機体に乗りながらの指揮になりますよ。」 「その辺はかまわん。君の好きなようにしてくれ。君が出陣する前に守備に対する アドバイスをもらえればそれでいい。君にはおおいに期待する。がんばってくれたまえ。」 アルフレッドの言葉を聞いて笑みをこぼすものもいたが、大抵の者は、今だ慎重な 面持ちを崩さない。 「・・・・・・分かりました。」 そういうと彼らの顔をじっと見るアルフレッド。 「では、これから基地へ向かいます。」 そう言うと、そそくさとその場を去るアルフレッド。 「やぁ。君がアルフレッド・イオハル元中佐かい。」 部屋の外にはローレン・ギリアードが立っていた。 「そうですが、あなたは?」 「元過激派のローレンという。」 その名を聞いて少し驚いた顔をするアルフレッド。 「名前はよく存じております。」 「君はあの連中を見てどう感じた?」 唐突の言葉にしばらく沈黙する。 「・・・・・・・・何が聞きたいのですか?」 「君の率直な言葉だよ。」 「・・・・・・・・・・。」 何も答えず押し黙ってローレンを見るアルフレッド。 「黙して語らずか。それが正解だよ。それでは失礼。」 そう言うと、にっと笑ってその場を離れていくローレン。 「どうやらかなりの大物のようだな、彼は・・・・・。」 そう言うとアルフレッドは、反対方向へ去っていった。
後書き29 バトストMENUに戻る 前の話へ行く    次の話へ行く