外伝2 ニクス
ZAC2101年7月、アンダー海海戦にて敗北を喫した共和国軍は、偶然発 見したトライアングルダラスの回廊を通って暗黒大陸エントランス湾へと進攻 を開始した。 先頭を切ったのはレイフォース師団。 共和国軍の切り札ともいえるライガーゼロを中心にした部隊だ。 そして彼らから遅れて数時間後、共和国の主力部隊が続々とエントランス湾に 到着する。 「この大陸に来るのも50年ぶりか・・・・・。」 一人の老将が感慨深げにそうつぶやく。 今、彼の頭の中には約50年前のエントランス湾での出来事を思い出していた。 当時はまだ20そこそこだった彼は、大陸戦争勃発時に第一次上陸作戦先発隊 としてシーマッド隊のカノンフォート部隊にいた。 結果は無残なほどまでの失敗。 愛機はダーク・ホーンの無げな一撃によって、物言わぬ鉄の塊とり、命からが ら救助されたのだった。 「今回は後発隊だが、一部隊を任されている、あの時のようなことは決してさ せん。」 そう心に固く誓うのだった。 「ナトゥ・キケゥ少将、部隊が上陸しました、作戦通りチェピンへ向かわせま す。」 通信兵がナトゥに報告する。 「おうさ。」 そう言うと目の前のモニターを見つめる。 「司令部より各機へ・・・・。」 オペレータが各部隊へ通告する。 「ようやく、上陸したと思ったら足場を固めないでチェピンかよ。」 パイロットの一人がう雑多そうにつぶやく。 「ゴート軍曹、心配しなくともまだウルトラザウルスを中心とした本隊が来る んだ。文句は二の次にしてちょうだい。」 通信モニター越しに女性の声が響く。 「了解しましたよ、ルキャナ曹長殿。」 ふてくされながら言うと、愛機であるベアファイターを走らす。
それを見てルキャナのベアファイターもそれに続く。 さらに後方からワイルドヴィーゼルユニットを装備したガンスナイパーが、そ の後を追いかける。 「ゴートさん!!ルキャナ隊長!!待ってくださいよ。」 「何、泣き言いってんだよ、こいつと同じぐらいのスピードが出せるだろ が!?」 「そんな事言ったって、ワイルドヴィーゼルユニットをつけて全速力で走ると バランスを保つのが難しいんですよぉ〜。(泣)」 「泣くな、わめくな!!それはお前の腕が悪いんだよ。いいからちゃんとつい てこいよ!!」 苛立ちを隠せず当り散らすゴート。 「いいかげんにしてゴート、ジェン、とりあえず離れないように気をつけてく れればそれでいい。あんたのレーダーが、この部隊の命だって事忘れないで。」 「分かりましたぁ〜。」 なんとも間の抜けた答えが返ってくる。 そこから遠く離れたチェピンでは、一人の士官が滞在していた。 チェピン、大陸間戦争が終了するまでダークネスと呼ばれ、ガイロス帝国の首 都だった都市である。 現在はヴァルハラに首都機能を移転しているが、ガイロス帝国にとっては重要 な都市の一つである。 そして、ここで行われた多くの戦いは今でも語り草となり、周辺には石化した 当時のゾイド達を今でも見ることができる。 「で、私にもうしばらく滞在しろって事かい?」 眉間にしわを寄せて恐ろしいまでの形相を見せる女性。 「そんな顔をしたって命令は変わらん。アイゼンドラグーンによる味方襲撃の うわさの件で、帝国内での閣下を疑う風潮が出てきた。後数ヶ月間、事を起こ すまで、帝国内部からの信頼を保つこと先決だ。それと部隊の監視の意味もあ る。いいな??」 「そう言われてもねぇ・・・・・もともと私は戦いたいだけで、ゼネバスの復 興なんかどっちでもいいだけどさ。」 そういいながら含み笑いを見せる。 「こら!!めったなことをいうな。とにかく共和国がヴァルハラに来るまでの 辛抱だ。その後は好きなだけ戦わせてやる。良いな。ユイニー。」 そう言うとモニターの男は強制的に通信を切る。 「下んないねぇ・・・・。」 そう言うと通信室から出る。 「これはユイニー二佐、向こうとの話は済みましたか?」 「ルーン・スレイブ、こんなところで盗み聞きかい??いい趣味じゃあないね ぇ。それに私は・・・・・・。」 「二佐じゃなく中佐と呼べって話でしょう?」 彼女の言葉をさえぎるように言うルーン。 「そういうことさ。しばらくあんたたちのサポートをする事になったよ。」 「これは光栄ですね。PK師団の鬼の爪と戦えるとは。」 そう言うと笑みを見せる。 「大尉!!」 二人の会話に割って入る兵士。 「何だ?」 「上陸した共和国軍の一部がこちらに向かっているようです。ヴァルハラの総 司令部より沿岸守備隊と合流後、迎え撃てとのことです。」 「了解した。すぐに前線に向かうと基地司令に伝えてくれ。」 「分かりました。」 そう言うと敬礼をしてそそくさとその場を離れていく。 「おやおや、忙しそうだね。手伝ってやりたいけど、あいにくここを動くなとも 言われていてねぇ・・・・・・前線にはいけないんだよ。」 「いえ、あなたほどの方に手伝っていただくほどでもないでしょう。共和国軍 など物の数ではありません。」 そう言うと敬礼をしてその場を去ろうとする。 「一つ忠告してあげるよ。昔はその物の数でない共和国軍に、旧首都だったこ のチェピンまで攻められたこと忘れないことだね。」 ユイニーの言葉に足をとめると振り返るルーン。 「それは重々承知しているつもりです・・・・では。」 そう言うときびすを返して足早に去っていく。 「まじめちゃんだこと。」 そう言うと不敵な笑みを見せるのだった。 それから数日後進撃を察知した帝国軍は、部隊を急遽編成しなおして防衛陣を 引いて共和国軍が来るのを待ち構えていた。 チェピンを目指す共和国軍は、上陸以来戦闘らしい戦闘を重ねずに、進撃して きていたために、突如として現われた帝国軍の大部隊に気をくれしてしまい、 攻めあぐねていたのだった。 特に彼らを悩ませているのが、5つの小山であった。 防衛陣の戦闘に布陣する5つの小山こそ、要塞攻略用に開発されたエレファン ダーだった。 要塞攻略用であるが、ひとたび防衛に回るとそれ強硬な壁となるのだ。 ニクシー基地での脅威の戦闘を知る共和国軍にとってはあまり出くわしたくな いゾイドだった。
「で、もう1日半はここでにらめっこしています。こんなことじゃあいつまで 立っても先に進めません。」 「それだけならいいが、向こうの守備兵力の増強を図られてはこちらが危うく なる。」 地図を見つめる将兵達の顔に苛立ち焦りが見える。 「エントランス基地へ爆撃隊の要請をしていますが、あちらも各戦線からの似 たような要請と、占領したばかりの基地の整理などでうまく機能していないよ うです。」 通信兵長が資料を片手に報告する。 「進軍させるならそれなりの準備をさせてからにしてほしいものだ。」 一人の将兵がいつぶやく。 「我が部隊の航空戦力で何とか崩せないものか?」 「部隊直属の航空機隊はどちらかというと上空援護が主任務で爆撃にまわすと なると、空の守りを失うことになります。それでは敵が全滅する前にこちらが 全滅するのが早いでしょう。」 「とにかくあのエレファンダーを叩き潰して、勢いづけたいものだ。」 「いいかな。今は爆撃隊が到着するのを待つのが正しい選択だろう。だが、 このまま黙ってにらめっこしているわけにはいかない。そこでそれまでの間、 やつらの基地内をかき回してやろうと思っている。」 ナトゥ・キケゥ少将は、おもむろに立ち上がるとそう言う。 「かき回す??一体どうなされるのですか?」 「なぁーに、昔中央山脈で使った手だ。」 そう言うとにっと笑う。 「はぁ・・・。」 若い将兵達には、彼の言っていることが何のことかが分からなかった。 「俺達いつから工作兵になったんだろうな。」 「無駄口は叩かないで目の前の事に集中して。」 「へいへい・・・・・・。」 ふてくされながらも与えられた仕事に従事するゴート。 何故彼がふてくされている下というと、穴掘りをさせられているからであった。 地面の下にあなを掘るのはスピノサパーにも十分出来る作業なのだが、掘削機 のモーター音で敵に発見されてしまう恐れがある為にベアファイターによる手 がきが行われていた。 「目標ポイント到達。それじゃあ仕掛けを作るんで地上の警戒をたのんます。」 「あんた、上官への口が段々悪くなってくるわね。」 「そんな事ありませんよ。隊長殿。」 「・・・・・まぁいいわ、ちゃんと仕掛けてくんのよ。」 不安そうに言うと所定の位置へ戻るルキャナ。 「了解、任せてくださいな。」 「こう言うのはさっさとおわらして人暴れしたいもんだぜ。」 そう言うと機体から降り、掘った穴に爆弾を仕掛けていく。 「よし・・・・隊長、仕掛け終えましたよ。」 『了解、すぐに戻ってきて。作戦に移るから。』 「了解!」 ゴートの威勢のいい声がトンネル内にこだまする。 急いで機体に乗ると作戦行動に移るために所定の位置へと向かう。 「こちら第3掘削隊、作業終了と共に所定の位置へつきました。」 『了解した。目標は現在も同位置にいる、すぐにでも作戦を開始せよ。』 「了解しました。いくよ、ゴート。」 そう言うとルキャナは、トンネルの天井を突き破って地上へ踊り出る。 他の部隊のベアファイターもそれに続いて地上に姿を現す。 帝国軍部隊は、目の前に現われたベアファイターに驚いて、動く事もできない。 それをいいことに共和国の各部隊は、帝国軍基地内をかき回す。 それを見て前線に配置されていたエレファンダーが動こうとする。 「いまだ!!」 ゴートの叫び声ととも無線スイッチが押される。 同時にエレファンダーを中心に爆発が巻き起こる。 「な、何!?」 混乱するパイロット。 そしてそのまま機体が沈み込む感覚を憶えると、爆発と共にエレファンダーが 地面にうまる。 少しはなれたところにいたエレファンダーも同じように地面に体を没していた。 動きが取れない状態のエレファンダーは、どうすることもなく共和国軍に撃破 された。
「どうした!?」 基地内にいたルーン大尉は、突然の共和国軍の攻撃に慌てふためく兵士を捕ま えて尋ねる。 「共和国軍が突然基地周辺に現われまして・・・・その後前線に配置されてい たエレファンダー2機が撃破されました。」 「急にだと?しかもエレファンダーを2機も・・・・・分かった。もう行って くれ。」 そう言うと格納庫へと向かう。そしてパイロットスーツも着ずに乗り込む。 「エレファンダー7番機、発進する。」 通信を終えると機体をゆっくりと動かす。 「大尉、お供します。」 その言葉と共にルーン機の後ろに二機のエレファンダーがつく。 「遅れるなよ。」 そう言うと急いで基地の外に向かう。 「エレファンダーがさらに3機現われました。」 最深部に進入していた舞台が基地内から出てこようとするエレファンダーを発 見して、部隊へ報告する。 『もう十分かき回したはずだ、帰ってこい。』 「了解。」 通信が終わると同時に、その通信が各部隊へと送られて、共和国部隊は這い出 た穴へと戻る。 すばやい動きで、あっという間にその場からいなくなる共和国軍。 ご丁寧に撤退が完了すると、はいでた穴全てをふさいでいくという念の入れよ うだった。 ルーンの乗るエレファンダーが戦場に到着した頃には、味方機の残骸が転がっ ているだけだった。
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